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ダークウィッチファンタジー   作者: 新木一天
1章 グリモア
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4話 パレード

「それじゃあ、行ってらっしゃい」


 青々と広がる空の下、爽やかな風が吹き抜ける道で、ロトは店員さんと向き合う。朝の非礼を詫びるかのように、彼女は申し訳なさそうに笑った。


「うん、行ってきます」


 気にすることじゃないよと、言外にそんな意味を潜ませてロトはクルリとカギューに背を向けた。


 今日はパレードを見に行く予定だ。テイカス神感謝祭、その初日のパレードはこの町の名物といっても過言ではない。


 神聖国家アトラテスの町なのだから、神殿があるのは当然なのだが、感謝祭が一際賑やかなのがこの町の特殊なところだ。


 感謝祭と言うと、まず神殿に一年のお礼を込めて供え物をし、その後各々の家で静かに去年の実りへの感謝と今年の様々なことへの願いを捧げるのが一般的だ。


 だがこの町テイクは一味違う。まず、新刊がしゃしゃり出てくる。屋根つきの馬車に乗り、町の神殿につながる大きな道を練り歩くというのだ。


 それだけでも驚きなのに、そこへ更に二日目として神殿前で儀式を執り行うと。神様からしたら傍迷惑な風習だ。


 ロトは当初、これを見物する気はさらさらなかったが、とある事情により参加することに決めた。その事情というのは先日のララポとの会話の中にある。


『テイカス神感謝パレード? なんです、その胡散臭そうなイベントは?』


『旦那、胡散臭そうなんて言っちゃダメですよ。一応、千年の歴史ある由緒正しき儀式なんですから』


 一応と言っている時点で、ララポもまた胡散臭さを感じているのが明白だった。あまり乗り気でなさそうなロトにララポは根気よくイベント参加を勧める。


『この儀式は必ず旦那の役に立ちます。ぜひ行ってください』


 鼻息を荒くして熱弁するララポを、うろんげな眼差しで見つめたロト。


『どうしてです? どうしてそこまでこの祭りを勧めるのかが、残念ながら俺にはどうにもちんぷんかんぷんなんですよ。キチンと説明をしてくれませんか?』


 聞き分けが悪い男として(自分自身に)定評のあるロトを、子供に言い聞かせるように声を潜めてララポは囁いた。


『なんでも、儀式の最中に神官殿が使うらしいですよ、魔法を。もしかしたらグリモアを持ってくるかもしれませんよ』


 ロトは驚いてバッと顔を上げララポに出来る限り近づけていく。


『本当?』


『本当です』


『本当の本当に本当?』


『本当の本当に本当です』


『それなら、行くしかないですよね——』


 というわけで行くことに決めたのだった。


 町はいつも通り——とは言っても、ロトがここへ来たのは昨日のことなので、正確には昨日と同じくざわめきに満ちていたが、そのざわめきの感じはやはりどこか浮ついていた。


 すれ違う人は漏れなく「今年もこの日がやって来たよ」「神官様のあの素晴らしい術が見られるのね」と行った会話を繰り広げている。


 「神様が」ではなく「神官様が」と言っている点がロトには少々おかしく思えた。


 道は人でごった返していたけれど、馬車が通るための幅は開けてあり、それのせいで道を歩くのは至難の技だった。


「なんだこの混みようは。息苦しい上に……暑い」


 人が密集しているのだ。彼らの肌をよく見てみると、水蒸気のようなものが立ち上っている。ロトはそれに加えてローブを羽織っていた。暑さは何倍にも膨れ上がっていた。


 町の中腹あたりよりやや神殿寄りの地点でロトは足を止めることにした。座る場所もないので人と人の間に割り込む形で入り込む。


 隣のおじさんがムッとした顔をこちらに向けた。ロトは反射的に俯いて顔を見ないようにした。


 やがてパレードが始まった。トランペットとドラムスの音に合わせて馬車が道へやってくる。ゆうゆうとゆっくりと、馬車上の神官は一人一人に手を振りながら進んだ。


 やがてロトとの距離も埋まってくる。じっと目を凝らしてからの脇腹に注目した。


「…………あった」


 くすんで色褪せた赤い表紙に、中央部に適当にあしらわれた魔法陣。


「間違いない。あの本はグリモアだ」


 ロトはいつになく真剣な表情で食い入るようにそれを見た。間違いではないかと思ったからだ。しかし、何度見返してもそれはグリモアに間違いがない。


「ついに、尻尾を掴んだってことか」


 神官はおもむろにグリモアの頁をめくると、とある頁を開いて手を高々と天に突き出す。


「『フルフレア』」


 詠唱とともに彼の手の先からは火柱の様なものが噴き出した。民衆から感嘆の声が溢れる。


「これは危険だ。辞めさせないと」


 あの神官はグリモアを軽視し過ぎている。これじゃあ、呑まれてしまうぞ。


 神官はご満悦な様子で二発目を撃つ準備を終えた。ロトは打たせまいと素早く左手を彼につき向ける。と、その時だった。


 ドウンという爆発音の後、馬車の進行方向から白い煙の柱が現れた。


「! なんだあれ!?」


 続けざまに馬車を取り囲む様にドウンドウンと爆発が続く。人々は一瞬でパニックに陥り、あっちへ行ったりこっちへ行ったりで複雑に入り組んでしまう。


「なんだなんだ? 一体、どうなっているんだ!」


 声を高く荒げて、近くのスタッフらしき人物に言い詰める神官。彼の首を取るなら、今が絶好のチャンスだ。


 ロトは狙いを定めて詠唱を——


「今度こそとったよ」


 すでに、ロトの背後は取られていた。恐る恐る振り向くと、そこにいたのは見覚えのない顔。綺麗な銀髪のショートモブに屈託のなさそうな笑顔が張り付いている。赤い目がキラリと光って恐怖を煽った。


「また気がつかなかったんだ。残念な人だなー」


 満足げに微笑む彼女は、果たして本当に彼なのか。ロトは頭の中に思い浮かべる彼と、彼女をクロスさせる。


「君は、あの鉄兜かい?」


「ふふ、ご名答。その報酬に少しお茶に付き合ってもらうよ」


 何を企んでいるかわからない彼女が、ロトには不気味で仕方がなかった。

魔法について

下級魔法 その魔法の名前をいう

中級 下級の詠唱にフルがつく

上級 下級にメガルがつく

最上級 下級にギガルがつく

最上位 下級にテラルがつく

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