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ダークウィッチファンタジー   作者: 新木一天
2章 未開の地
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6話 最悪の事態と最低な再開

4話未読の方はそちらから。


山の麓で爆発が。ロトの安否はいかに——

 爆発は北の山麓からだった。そこの白い建物からもうもうと煙が上がる様をクー、ヘクとリリの三人は茫然と眺めている。ベットにちょこんと座るリリの口はぽかんとあけられ、飛び出んばかりに目をギロリと剝いたヘクは「まじか……」と呟く。たった数秒の出来事、しかしその衝撃は数秒なんかじゃひかなかった。


 リリさん、とベットの彼女を見る。鋭い声にグイと意識を馳せていたらしいリリは硬い表情で眼を白黒させながらもこっくり頷いた。


「あなたの病気、長時間一人だとまずい種類のですか?」


「いや、完全にわかりきってはいないから容易にうんとは言えないけれど、別に大丈夫だと思うよ。それよりもなんで今そんなこと訊くの?」


「ヘクをお借りしたいからです」


 発言の意図はすぐに理解できたのだろう。自分だけが聞き取れるくらいのか細い声で「まさか」と口に手を当てた。構うことなく、隣で少し腰を浮かせて下唇を噛むヘクを見る。ほぼ同時にヘクも、険しい表情のクーを睨むように見やった。


「クー! いくぞ!」


「場所は? 最短ルートで何分かかる?」


「場所は完璧。時間は普通なら十五分は欲しいけど、お前なら五分でいけるだろ?」


 クーは鉄兜をグッと被り、ヘクはちゃぶ台に放ってあったグローブを手に嵌めて一目散に飛び出した。玄関からではなく、横着をして開かれた窓からである。背中越しに何やらリリの叫ぶ声が聞こえたが、二人は無視して走った。


 クーはしまったと心の中で連呼していた。まさか滞在初日から(、、、、、、)予期せぬことが起きるとは思ってもみなかった。前回のテイクの街でもそうだったが、ロトには案外トラブルを巻き起こす才能というのもがあるのかもしれない。


 正面に見える白い箱に似た建物は灰色の煙をこれでもかというほどに上げている。ここの建物は見た所コンクリート建築かと思われたが、木材で作られたのかもしれない。ならば危惧すべきは周囲への燃え広がりである。


「もう直ぐ着くぞ! どうする? 俺は井戸を探すつもりだが」


 叫ぶヘクにクーは一秒も迷うことなく、腰の短刀に手をやりながらハッキリと応えた。


「あの建物を一分でも、一秒でも早く壊す!」


白い建物の全貌が二人の前に現れる。さほど大きくはなかったが何かただならぬ様子だった。背筋に虫が這うような気持ち悪い感覚が走る。クーは短剣を取り出して迷わずむき出しの主柱を刺しだす。ガッガと大きな音でそれが削れるのを横目に、ヘクは軽やかな身のこなしで建物内を駆け回った。喉がはち切れんばかりに声を張る。


「おい、兄ちゃん無事なのか? 何処にいる、リリが心配してんだよ。この声が聞こえてんなら、頼むから、返事してくれ!」


 悲痛な叫びだった。微かな希望を込められた叫び。ヘクも薄々は感じていた。この業火の中生きている可能性はゼロに等しいと。だが叫ばずにはいられなかった。だって彼は、リリにとってただ一人の肉親だから。虚しく響く言葉と固い柱が削れる音が、燃える炎にかき消された。


「ヘク、もう壊れる。早くそこから出てこい!」


 クーの言葉への返事はなかった。重要部を全壊したのか、ドスンと建物の上部が重く落ちる。土埃を大量に上げて、それは地面に落ち着いた。


「やばい。おい、ヘク無事かい?」


 冷や汗を流して咄嗟に叫んだ。僅かな時間の後で、クーが見ていた方向からやや西の瓦礫が動き、中からよっこらせとヘクが顔を出した。ブルブルと頭を振りつつ「無事だ、心配ないぞ」の声。クーはソロリと胸を撫で下ろす。


「さてと、スカッと壊してくれたなこの野郎。おかげか知らんが火事も収ってら。やれやれ」


「最後のやれやれさえなかったら中々嬉しいんだけれどね。まあいいや。そんな事より手分けして二人を探そう。お兄さんの手がかりとかある?」


「ルー兄って呼べば気づくと思う。金髪の長身男だ。そっちの連れの特徴は?」


 特徴、と問われてクーははた(、、)と困った。そう言えばロトの事をよく知っていないではないか。分かることと言えば黒髪黒目で、右腕がなくって、一人称が僕で、名前がロトで、柔和な顔してて、フード付きのマントを着ていて、あんまり我が強くなくてとその程度である。そのほかのことは何も知らないのだった。

 「早くしろ」とまくし立てるヘク。とりあえずロトって名前の黒髪黒目の男とだけ教えて別れることにした。


「おーい。ルー兄さんやーい。聞こえたら返事してくれー」


 とりあえず遠くまで聞こえるように口に手を当て言い走った。足場は悪かったが、気になるほどではなかったので続行。


「クー!」


 甲高い声が聞こえた。バッと振り返るクー。そこにいたのは寝間着のまま、裸足のままのリリだった。彼女の顔は青ざめており、ジッとクーを見つめる目は険しい。


「リリ、どうしてここまで来たんだ。いや、それよりもその顔、何かあったのか?」


「何かって、そっちこそ何かなかったの?」


 質問に質問で返される。言葉に詰まるクー。手を上げて肩をすくめた。


「残念ながらお兄さんはまだ見つかってない。今二手に分かれて探しているところだから、大人しく家で待っててくれないか?」


「違うの、そうじゃなくて。まだなにも起きてないのよね?」


 彼女の返答に首を傾げた。そうじゃない、とはどういう事だ? 兄とロトを見つける他に何かが起きるというのか? リリに問おうとして、その言葉はついに発せられることはなかった。

 ヘクの鋭い悲鳴が聞こえた。何か恐ろしいものを見てしまったかのような声が。顔を巡らせて呆然と立つリリに言いつける。


「ここで待ってて、絶対!」


 いうが早いか一目散に駆け出す。嫌な予感がしていた。動機が早くなる。周囲の空気が変わっていく気がしていた。クーはあの日を思い出していた。


「まさか、そんなわけ……」


 辿り着いたそこでは、悍ましい光景が広がっていた。死体。顔のない死体。血に染まるヒトがそこに立ち尽くしている。見覚えのある顔。そうだったと確信した。


「やはりお前か。なぜここにいる、魔女!」


「我のことは暗闇魔女と呼べ、下等生物が!」


 魔女と呼ばれた生物の叱咤が空気を凍りつかせていた。

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