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ダークウィッチファンタジー   作者: 新木一天
2章 未開の地
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4話 謎と予兆

クーは門番の少年——ヘクに連れられた家でランチだ!

「ふぅ、なかなかに美味だった」


 満足げに言葉を漏らすクー。ベットの上の白髪少女——リリはその言葉にえへんと鼻を高くした。


「ふふ、ヘクの料理は凄いでしょ。私の自慢なんだよ。ヘク、いま確かお菓子を作り置いてたよね」


「いやお構いなく。よそ様の家でお菓子までいただくなんて不躾な真似はしませんよ」


「俺のぶんの昼飯まで食ってたやつが何言ってるんだ……」


 台所でゴソゴソ何かをする小柄な少年——ヘクの口が聞こえた気がしたが、クーはそれをスルーする事にした。


 今は真昼を少し過ぎた頃。ヘクが用意した昼食をかき込んで、クーとリリはホッと一息ついたところであった。ボロボロのちゃぶ台の上にコトリと食後のお茶が出される。ひび割れて欠けた湯のみのような物で、クー達はそれを啜った。


「あちっ!」


「ん? なんだ、そんなに熱いか?」


 声をあげたクーを不思議そうにヘクは見る。なんとなくだが、クーは彼から蔑みの眼差しを向けられているような感覚に襲われた。なんとなくだが。


「ねえ、あなたの名前はなんと言うんですか?」


 ベットにちょこんと腰掛けるリリがクーに尋ねた。そこで、そう言えばまだ自己紹介をしていないと、クーは自分のミスに気がついた。数秒髪の毛をスラリと長い指で弄び、表情を柔らかくして。


「私の事は親愛を込めてクーと呼んで下さい」


「クーね、わかったわ。私はリリ。そっちの小さいのがヘク。よろしくね」


 彼女らの名前は先ほどのやりとりで既にわかっていたのだが、特にどうと言うこともなくクーは丁寧にお辞儀したリリに倣って、ペコリと頭を下げた。


「クーは何をしてる人?」


「旅人ですよ。ぶらりブラブラ、当てもなく街から街へ飛ぶ、渡り鳥のようなものです」


 両手でカモメを作って見せたクー。そこへ一通りの家事を済ませたヘクがやって来た。彼はクーの作るカモメを嘲笑う。


「滑稽なカモメだこと。で、旅人ってのは嘘だろ? 本当に旅人なら、こんなところに来るはずがない」


「あら、それもそうね」


 ウンウンと頷くリリ。肉の落ちた指が土色の顎に添えられる。


「そこのちびっこいのは、よく頭が回るようで。でも残念、生憎なことに本当に旅人だよ」


「俺にはタメ口か。…………下手な嘘だな」


「そう思うなら、どうぞご勝手に」


 バチバチと火花を散らす二人。否、正確に言うならヘクが飛ばした火花をクーがサラリと受け流しているのだが。


 なんとなく険悪なムードを察したのだろう。リリがパンと手を一つ合わせ、勤めて明るい声を上げる。


「クーはどうやらこの町は初めてみたいだけど、どうやってヘクと知り合ったのかしら?」


「そうですね。実は街の入り口で偶然出会って、意気投合してここへ来たのです」


「街の入り口で襲いかかって来て、交換条件でここへ連れて来た」


 ほぼ同時に全く違うことを言う。リリは目を点にして「意気投合? 交換条件?」とモゴモゴ言いながら首を傾げた。


「訊きたい事はもうないみたいですね。それじゃあ、今度は私から」


 そう言うとクーは、体を前のめりにさせた。目に鋭い光が灯る。リリはそれに身を固めて、ヘクは僅かに身構えた。やけに真剣なトーンでクーは問う。


「質問したい事はズバリ、この町の異常についてです」


「異常だ? この町がか」


「うん、そう、異常だ。ここは二人とも認識してると思うけれど、未開の地と一般に呼ばれる場所だ。

 未開の地とは、そこの領土を国際的にみて保持している国の政府が事実上経済的、政治的に介入していない場所を指して使う。

 いわば国内の独立国家といっても過言ではない場所。その上、国際的には国として認められない場所を言う。

 そう言う場所の多くは自給自足の文化を発展させていて、国として十分な機能を保持しているケースが多い。と言うかほとんど全部それだ。

 でもここは違う。町の様子を見ても飢えて死ぬ人の影がこれでもかと言うほど多い。自治がなされている様子もない。治安も悪い。これはおかしい」


 クーの的を得た意見に二人はゴクリと唾を飲んだ。構わずクーは続ける。


「リリは、病気なんですよね」


 唐突な問いにリリは「ええ、まあ」とフワフワした答えしか返せなかった。しかし、クーは実地が取れたと言わんばかりに自説を述べる。


「病人がいて、薬もある。これはつい最近までこの町が安定していたことを示している。現在とは違ってね。私はここからある考えに至った。

 ここからが質問なのだが、君たちは、いや、この町は現在、なんらかのトラブルに巻き込まれているのではないか?」


 クーはさらに身を乗り出して訊いた。その表情は真剣そのものだった。やれやれとため息をつくのはヘクである。


「あんまりこの話はしたくないが、まあ別に口止めされているわけでもないから言うぞ」


 見るとリリの顔色がより一層悪いように思えた。苦しんでいるかのように。


「お前の言う通りここは以前はもうちょっとだけマシな所だった。でも変わっちまった。ある日この町に盗賊を名乗る奴らがやって来たんだ」


 ガンと机を殴った。唇は噛み締められて、今にも切れてしまいそうだ。


「あいつらは俺たちの畑を独占し、町の男手を奴隷に使って、やりたい放題やってやがる。リリの兄貴も……」


 尻すぼみになった言葉の末は、言わずもがなだった。クーは静かにため息を漏らす。驚いてしまったのは次の発言があったらだ。


「それに、異邦人はしょっぴかれて隷属にさせられるとか」


「………………?」


 ——異邦人は隷属にさせられる? あれ、なんか忘れちゃいけない事を忘れているような。


「旅人さん、危なかったですね。無事でよかったです」


 ——あれあれ、そう言えば私は誰かとここにやって来たような気がするようなしないような……。


「お、そう言えば、あの時クーの後ろにいたやつはどこにいったんだ?」


 ——……ロト忘れてた。


 このヘクの言葉が決定的だった。クーは頭をワシワシ掻いて、渋々覚悟を決めると尋ねてみる。


「ちなみに、捕まった人が連れてかれるのはどっちだい?」


「ああえっとな。あそこらへんだよ」


 ヘクがピッと北を指差した。山の麓に白い建物が見える。ヘクが指差した途端、ドーンと大きな音がなって白い建物から煙が出て来た。


「あの燃えてるやつ?」


「そうそう。今爆発したやつ。って、え?」


 そう、今の状況をざっくり簡単に説明すると。おそらくロトが高まっている場所らしきところが、今ちょうど爆発したのだった。

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