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ダークウィッチファンタジー   作者: 新木一天
2章 未開の地
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2話 見張りとの出会い

あらすじ

魔女を倒すために旅をするロトと鉄兜を被った少女クー。

未開の地に踏み入った彼ら。クーは門番に謎の魅力を感じて追いかけていき。ロトは町に入った途端、捕まってしまう——。

 ひんやりと冷たい牢の中。ロトは石の天井を見上げて、ため息をついた。


「どうしてこうなった……」


 呟いてみるも状況が良くなるわけでもなく、止む無くゴロンと寝そべった。硬くゴツゴツした床なので、寝るのでさえ一苦労である。


 首筋に剣を突き立てられたロトは、あの後なされるがまま牢屋へとのそのそ歩いて行った。途中で見える文明の未発達さには驚かされたし、魔法を使えば脱出できそうなレベルの檻には呆れもしたが、剛に入れば剛に従えのごとく、甘んじてその運命を受け入れていた。


 牢の前を見る。そこには見張りと思われる男が一人、棍棒を携えて仁王立ちしている。こちらに背中を向けた彼は、いま隙だらけだ。


「逃げるならいま。でも……」


 逃げる気もさらさらないロトは小さく背伸びをした。持っていた荷物は全部取り上げられたので、暇を潰せる様な道具もない。退屈の極みである。


「ねえ、見張りさん。こんにちは」


 せめてもの退屈しのぎにと、険しい顔の彼に声をかけてみた。ギロリと鋭い眼差しを向ける。背筋が凍りそうだったが、ロトは気にしない様にして続けた。


「それにしても凄い檻ですね。惚れ惚れするな」


「…………」


「開発が進んでいないところを見ると、発展途上地区といったところでしょうか?」


「…………」


「ずっとそんなところに突っ立ってて疲れません?」


「…………」


 全くの無反応は堪える。ロトはがっくりと首を垂らすと、深くため息をついた。さい先は最悪だった。


 二時間後くらいだろうか。ロトが牢屋の中でまあまあそこそこ快適に過ごしていると、不意に見張りが話しかけてきた。


「怖くないのか?」


 突然の質問とその不可思議な内容に、首をかしげるロト。見張りはそれをどう捉えたのだろうか。「突然捕まって、怖くはないのか?」と言い直した。


「…………ま、怖くないっていったら嘘になるかな」


 口が裂けても「いざとなれば魔法で簡単に抜けられるから別にどうとも思わない」なんて言えないロトである。見張りはそんな彼を哀れむような目で見、自分を責めるように頭を掻いた。


「ごめんな。こんな目に合わせて」


「謝らないで下さい。別に僕はあなたが悪いなんて思ってませんから」


「いや、僕が悪いんだ。あの時あんな奴にこの村を占領されなければ……!」


 どうやら実に大変な過去を持っているようだ。ロトは自分が檻の中に囚われているのも忘れて「話、聞きますよ」と間の抜けたことを言った。


 見張りは一瞬目をパチクリとさせて、そして顔を優しく綻ばせる。


「ありがとう。本当は君に言うような話でもないんだけどね。聞いてもらえるなら嬉しいよ」


 前置きもほどほどに、見張りは静かに語り出した。


「一昨年の秋だ。この村はまだ平和が保たれていた。誰もが裕福ではなかったけれど、皆んなが助け合って、支え合って生活していた。……のに、あいつらが来たんだ!

 ここは——君も知ってるかな——未開の地と呼ばれるほど辺鄙の村なんだ。地図にすら載ってない。当然軍事力も皆無なんだ。こんな牢こそあるけれど」


 コンコンと軽く鉄柱を叩く。音はあまり響かなかった。薄暗くて向かいに別の牢があるから、てっきり置かないとばかり思っていたけれど、案外屋外なのかもしれない。ロトの考えが巡る間にも話は進む。


「そんなある日、あの男がやってきた。胡散臭そうな目をしていたよ。村人が歓迎したのに、油断した途端あっという間に村を半壊させて、気がついたらこの有様さ。笑ってくれ」


 笑えない。情けないと罵れない。みっともないと嘲られない。たぶんその屈辱は、計り知れない。そう感じた。


「……他愛もない話をしよう」


 他意もなく呟く。なぜだかは知らない。いや、知ることができないのだ。


「俺もそうしたかった」


 そう返した見張りとロトは話した。自分のこと、家族のこと、困ってること、泣いたこと。いろんなことを語り合った。


「俺には妹がいてよ。まあ、それが可愛いんだ。とんでもなくだぜ。親がいなかったからかな、他よりも随分仲良くなって、今では俺が親代わりさ」


「僕は兄弟もいませんから、その気持ちは残念ながらわかりませんが、随分といいものなんでしょうね」


「そりゃそうだ! 一度できて見たらわかる、あれはたまらんぞ」


 中途半端なニヤケ顔が気持ち悪い見張りであった。ロトは彼の言葉で、ふと遠い過去に想いを馳せてみる。懐かしい温かさを感じた。


「兄弟はいなかったけれど、親友ならいたよ」


「おっ、それもいい。友人がいると人間強度が下がるなんて言った奴もいたが、ありゃ全くのデタラメだ。人には友達が必要なのさ」


「そんなこと言った人がいるんだ……」


 その後も彼らはやいのやいのと語り合った。語り合って、とうとう日が暮れてしまった。見張りは家に帰る時間らしい。


「話しが合うなお前。いい友達ができたよ」


 嬉々として言う見張りに、ロトもほんの少しだけ嬉しくなった。ほんの少しだけだけど。


「こちらこそだよ。全く嬉しいものだね。なにぶん友達が少ないからさ……」


「何言ってんだよ。その性格で友達ができないわけがないだろう? 親友もいるって言ってたし、謙遜は嫌われるだけだぞ」


「謙遜じゃないですよ」


 じゃあな、と見張りが言う。ロトは薄暗い背中に手を振る。今日はお開きだ。去り際に見張りは、ふと思い出したように付け加えた。


「ルルゥ。俺のことはルルゥって呼んでくれ」


「では、僕のことはロトって呼んでください」


 こうしてロトの災難な滞在の一日目が終わりを告げた。

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