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ダークウィッチファンタジー   作者: 新木一天
2章 未開の地
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1話 未開の地

「おい、クー! 本当にこっちであってるんだろうな!」

「いちいちいちいち五月蝿いな。置いてくぞ」

「ああっ、待て!」


 静かな山の中にうるさく騒ぐ影が2つ浮かんだ。片一方はラフな服装に合わない奇妙な鉄の兜を被り、またもう一方は全身を覆い隠すローブに身を包んでいる。


 互いに協力関係となったロトと、鉄兜ことクーは森の中を突き進んでいた。深い緑に包まれた道は、歩き辛くてしょうがない。


「長い道のりだね。ちょっと疲れちゃったかな。ねえクー、本当の本当にこっちで合ってるんだよね?」


 黙々と進むクー。その姿にロトはややウンザリしていた。テイクの街へ来た時の馬車も、こんな感じだったのだろうか。


 彼らは人目を避けて敢えて列車ではなく森の中を歩くという非常に厄介な手段を取っていた。二人が今目指しているのは、クーが当初から行きたかった場所。通称、魔女の荒れ地である。


 ロト自身その土地の存在は全く知らなかったのだが、巷では有名なことらしい。


 なんでもそこは魔女が巣食う呪われた土地のようで、足を踏み入れたものは散々な目に合うのだそうだ。生きて出られるかすら保証されない場所とは、ますます魔女の予感がする。


 そんなわけで道無き道を突き進むロトとクー。ガサガサと草を踏み分けていくと、ふと視界が開けた。


 そこには古ぼけて開きっぱなしの石の門と適度に刈り取られた雑草とが顔を出していた。地図上では町がないはずなのだが、どうやらここに現れたのは一つの町らしきものだ。


「止まれ」


 足を踏み入れようとした瞬間、横から鋭い声が響く。よく見てみると、近くの木に少年が一人身を潜めて立っていた。ロトの腰あたりまでしかない体躯は、麻布マントを羽織っていて、手には鈍い光を放つ槍が一つ。痩せこけた顔でギラリと光る双眸が恐ろしい。


 少年は二人の方に近づくと重ねて問うた。


「お前たちは何者だ。ここはお前らが来るようなところじゃない。今すぐ立ち去れ!」


 まるで何かを恐れているような口ぶりに混乱するロトとクー。だがしかし、この程度で「ハイそうですか」と言って引き下がるようなクーでもなかった。


「おいおい少年。ここは公道のはずだ。誰がいつ通ろうが、誰にも文句を言われる筋合いがないと思うのだが、どうだろう?」


「うるさいよそ者! ここは俺たちの道だ。俺たちの道で、その他の誰のものでもない。だから、ここを通れる道理もない!」


「道理もなにも、この道は国が定めた公道であって、私有地ではない。この道の所有権はあくまで国だ」


「うるさい、うるさい! 国なんて知ったことか。俺たちを見捨てたくせに、俺たちのものまで奪おうったってそうはいかない!」


 聞き分けなく喚き立てる少年。ギュッと握りしめた槍の先をこちらに向けてきた。クーに、向けたのだ。


「危ない」


 一言だけ呟いたクーは、目にも留まらぬ速さで少年を蹴り飛ばしていた。勢いよく飛んでいく小さな体。木々の隙間を縫って、遠くの大木に激突した。ビクンとくの字に折れたかと思うと、そのまま地面へずり落ちる。


 手加減というものを知らないらしいクーは少しばかりさっぱりした顔つきで、視線を少年から町の方へと向けた。


「……ところでロト。お前は未開の地を知っているか?」


「未開の地? 残念ながら知らないね。そんなところがあるのかい?」


 質問に質問で返すロトにクーはわずかに顔を綻ばせる。


「あるに決まっているだろう。どれ、一つ教えといてやろう。まだ人類が踏み入ったことのない地。それを人は未開の地というのだ」


「書いたまんまだね」


「事実そうなんだから仕方がない。しかし、一般に未開の地とされている場所の中には実は、政府がとある事情から故意に隠している土地というのもあるのだ」


「故意に? どうして?」


「いろいろな要因があるよ。例えば治安の面に置いて、著しく自治がなされていない土地、なんかがある。そして……」


 そこまでいうとクーはまっすぐ伸ばした指で町の門を指した。


「この町は、そんな未開の地の一つだ」


「…………」


 クーは言い切った満悦感に浸っている。その間ロトの頭は混乱しきっていた。


「……質問があります」


「何なりと」


 なにがきても答えられる、と余裕の表情のクーである。ロトは訊いた。


「どうしてここが未開の地と言えるんですか?」


「愚問だな。地図に載っていないからだ」


「ではなぜ、その未開の地について一般人であるはずの君が知っているんですか?」


「それこそ愚問だ! 人が知っていて、私が知らないなんてことがあるわけないだろう?」


 高らかに笑うクーだったが、相手は人でなく国だ。そんな暴論通じない。クーはそれすら気にする様子はないのだけれど。


 改めて町の中に足を踏みいれようとする。と、目の前を槍が通り過ぎた。鈍い光が過った。なんだ、今のは。出所はすぐにわかった。先ほどの少年だ。


「……入るなって、言ってるだろ」


「君……」


 その小さな体は既に満身創痍……、などではなくピンピンしていた。まるで先ほどのクーの攻撃がなかったかのように。


「……お前、どうなっている? しばらくは立てない程度の攻撃をしたつもりだったのだが」


 ジッと少年を見つめるクーの目が険しくなる。警戒の色に染まる。少年はそんなクーを、驚いた様子で、ただ純粋に疑問の目で見た。


「今のって、攻撃だったのか?(、、、、、、、、)


 ピクッとクーの眉が上がる。彼女はとても楽しそうな顔をすると、横で唖然としているロトに言った。


「ロト、私はこれからあのガキとじゃれ合ってくる。くれぐれも、邪魔するなよ——」


 返事を聞く間も無く、クーは少年に飛びかかった。驚き目を見開く少年は、とっさに背後に跳ぶ。クーはすかさず腰の極短刀を投げつけて、距離を詰めた。それをなんとかいなす少年——。


 徐々に二人の影が遠ざかっていき、丁度見えなくなったころ、ロトはようやく未開の地へと足を踏み入れた。


 街の中はテイクなどは比にならないほどの田舎だった。家? の前には山菜の干物のようなものが置いてあるし、至る所で骨と皮だけの子供が見つめてくる。


 謎の罪悪感を感じながら、街の中を練り歩くロト。目指すは今夜の宿舎になりそうなところである。と、


「待て、そこのローブの男」


 背中に声をかけられた。また、である。絶対にいいことのはずがない。


「はい、なんです——」


 おざなりに答えてやろうと、振り返ったロトは絶句した。問答無用で首筋に突きつけられたそれは、紛れもなく剣だったのである。


「貴様は異邦人だな。残念なことに異邦人は捉える規則があるんだ。大人しく捕まってもらうぞ」


「…………はい」


 こうして町に入って早々、ロトは人生最大のピンチを迎えたのである。

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