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0話「始まり」

初投稿です。拙いところも多々ありますが、よろしくお願いします。


小説を書く際に色々とアドバイスを下さった皆様、文体の参考にさせていただいた皆様、展開の勉強をさせていただいた皆様。

この小説が出来上がる支えになってくれた皆様に感謝申し上げます。

 ——人は真の恐怖と対面するとどうなるのか。傅く? 慄く? 驚く? 壊れる? 答えはどれも否である。


「……はぁっ、……はぁっ、……はぁっ」


 人が真の恐怖と対面する時に感じるのはそのどれでもなく、そしてそれ(、、)以外のどれでもない。要するに何もないのである。


「覚えておこう……。少年よ……」


「はぁっ……、はぁっ……、はぁっ……」


 文字通り何もない。何も感じない、何も感じられない。自分の置かれた状況を、立ち位置を、生死の運命すらも。思考という思考が強制的に停止され擬似的な暗闇を視認する、否、させられる。


「我が名はメフィスト。正を嫌い悪を愛す者」


「はぁっ……、はぁっ……、はぁっ……」


 不敵な魔女はその威圧感で十二分に少年を圧倒する。少年は甚だ混乱した。伝説の、しかも忌み嫌われている魔女が、今目の前にいるのだ。


「心ある者からは【暗闇魔女】と呼ばれている」


「はぁっ……、はぁっ……、はぁっ……」


 何がどうしてどういう事で、このようなことになったのだろうか。わからないわかるはずもない。少年の目に映るのはただ一つ闇だけなのだから。


「愚かで浅ましく、そして純真で無垢な少年よ。お前のおかげでまた我が身はひとつ完成へと近づいた」


 それは不快で奇怪に笑う。いや、そもそも笑っているのだろうか。分からない。何もかも全部が分からない。


「お前の名前も覚えておこう」


 不気味で不埒で不可視の魔女が、悍ましく恐ろしい、しかし軽やかな声で誰にいうでもなしに呟いた。


「アスタロト・フルエントラル…………」


※ ※ ※ ※ ※


 ——人の一生は孤独に始まり孤独に終わる。それは誰しもが知っていることで、それは誰しもが目を背けているものでもある。


「逃げ……。○○○○○だけでも、はやく……」


 焼け焦げた血の匂い、轟く阿鼻叫喚、悲痛に歪む人々の顔。早まる動悸は少女を盛んに攻め立てる。


「お願いだから……、あなただけでも生きて……」


 全ての元凶にして全てを放棄させられた少女は、さながら中身のないマトリョシカ。虚ろに徐に、彼女はそれ(・・)へと一歩踏み出した。


「お願いだから……。どうして……、逃げてって言っているのに……」


 体がまるでいうことを聞かず、自分の意思とは全く関係なしに一歩ずつ確実に前進していった。少女が見ているものは——あれをモノと形容して果たして良いのかはわからない。なんせ、形容すべき姿形がないのだから——黒き虚構の中で薄ら笑いを浮かべていた。


「○○○○○! ○○○○○! お願いだから……、お願いだから行かないで!」


 悲痛な叫び声をあげる彼女は、はて誰だっただろう。悲しいことに思い出せない。これが……。


 近寄る少女に気がついたそれ(・・)は、泥沼のような目をして少女を嘲た。


「愚かな人間、脆弱な人間よ……。我に楯突いたのが運の尽き。精々その不運を恨むのだな」


 ハハハという乾いた笑い声は、朱に染まった虚空の中で反響し吸い込まれて、二度と忘れないように、二度と離れないように少女の記憶に焼きついた。


 少女はそれ(・・)の笑い声が渦巻く中、なんとかやっと一言だけ言葉を紡いだ。


「お前は……、誰だ?」


 笑い声が止まり、ギョロリと何かにこちらを見られた気がした。多分これは今目の前のそれ(・・)から来ているであろうことは明らかだった。


「【暗闇魔女】。我は心ある者からはそう呼ばれている……」


 なんともなしにそう言うとそれ(・・)——【暗闇魔女】は、


「————ッ!!」


 少女の生きた村を、いともあっけなく消しとばした。

本編は次からです。

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