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Life -刻の吹く丘にて-  作者: 心音
Episode of Konatsu
97/166

第96話『大嫌いな人間』

「――ふと思ったんだが、お前こっちではバスケする気ないのか?」


ひより達とバスケをする約束をしていた俺たちは、待ち合わせ時刻よりも早く到着してしまい、商店街の中にあったコンビニの前で時間を潰していた。

背中をコンビニの壁に預け、右手にはスマホ、左手にはアイスクリーム。天高くからジリジリと俺たちの身を焦がす太陽から視線を下げた俺は、カップアイスを無心に食べている小夏に問いかけた。


「無いよ」


食べる手を一瞬止めた小夏は、考える素振りを一切見せることなく即答する。

転校前のバスケに対する熱の入れ方を考えると、温度差が正直かなり激しい。けれど、バスケが嫌いになった訳ではないと思う。嫌いならこの間のフリースローイベントだって、今日の集まりだって断るはずだ。


「一応聞いておくが、どうして?」


「理由は色々あるけど、強いて言うなら……そうだね。今はそれどころじゃないから――かな?」


「……?」


真面目にバスケをしている余裕なんて無い――そう捉えることしかできない発言に俺は首を傾げる。

同時に小夏との間に何か見えない壁のようなものがあるのを感じた。手を伸ばせば簡単に小夏に触れることはできる。けど、心に触れようとすればその壁が阻んでそれ以上の進行を許してはくれない。


「まぁ、小夏がそう決めてるのならそれでいいんだが」


俺たち兄妹の間で隠し事はないと思っていたが、やはり隠し事の一つや二つ誰にでもあるということだろう。何でもかんでも打ち明けて共有するよりも、そういったものがあった方が自然と言える。

無理に聞き出すのはやめよう。小夏が話してくれるのであれば聞いてあげればいい。


「お兄ちゃんならそう言うと思っていたよ。やっぱりお兄ちゃんは優しいなぁ」


小夏は微笑を浮かべながら再びカップアイスを食べ始める。

あたたかい太陽に照らされたバニラアイスの表面はじんわりと溶け、ほのかに甘い香りを漂わせていた。


「話したくないことを無理に話す必要はないからな。……まぁ気になるっちゃ気になるが」


「そういう正直なところも好きだよ。まぁ実際、話してもいいんだよ。いいんだけど、多分理解ができないと思う」


「と言うと?」


「簡単に言えば、スケールの規模が違う。お兄ちゃんが想像しているよりもずっと、果てしなくこの話は大きなものってこと」


「……?」


いまいち小夏の言っていることの意味が理解できずにいると、小夏は少し考えるような素振りを見せた。

それからすぐに足元に置いていたバスケットボールのカバーを取り外してボールを手に取ると、何を考えているのか唐突に上空に放り投げた。


「――もし、このボールが地面に落ちた時、世界が滅びるって言ったら信じる?」


「いや、信じない」


俺が答えると同時にボールは地面に落ちてバウンドする。世界はもちろん滅んでなどいない。


「そう。まさしくその通りなんだよ。信じることが到底不可能な話。お兄ちゃんは今私の問いかけに対して『信じない』って即答した。だから、理解できるできない以前に信じられない」


「……なら、どうしたら信じられるようになるんだ?」


そう訊ねると、小夏はさっきまで浮かべていた硬い表情を崩し、待ってましたと言わんばかりの笑顔を作った。

その瞬間確信した。暗くてよく分からない話はこれで終わりということなのだろう。俺は仕方ないかとため息を吐きながら、これから始めるであろう小夏の馬鹿話を聞く姿勢を取った。


「もっと私の好感度を上げていくしかないよね! ギャルゲーのヒロインだって、好感度が一定以上にならないと秘密とか話してくれないでしょ?」


「……はっ。そうかよ」


追撃はしない。さっきも言った通り、小夏が話そうとしないのであれば無理に聞き出さない。

距離を詰めるのは簡単だ。けれど、小夏との距離はい今はこれでいい。俺たちは十分すぎるくらい近い。好感度を上げる必要もないくらい兄妹としての距離は縮まっている。これ以上近づけることに意味があるとすればそれは――


「……いや、考えすぎか」


俺たちは兄妹だ。それ以上の関係になることを想像するなんてあまりにも馬鹿らしい。

頭を振って今浮かんだ考えを振り捨てたところで、誰かがこちらに向かって走ってくる足音が聞こえ始めた。


「あ、花澤さんだ」


「ホントだ……って、なんだあの服装」


こちらに向かって走ってくるひよりの姿は、体育の授業の格好――要するに体操着姿だった。

確かに運動するのには最適と言えるだろう。俺と小夏だって上下ジャージ姿でいる。ジャージの下にはTシャツを着て、公式大会の時に使用していたユニフォームの下を履いていた。これは誰が見てもスポーツをするという格好であることに違いない。

しかしひよりの格好はどうだ? 学校でもない場所で体操着を身に纏い、商店街を駆け抜ける――想像力豊かな人間が見ればどんな想像をされるか分かったもんじゃない。


カシャ――。

なんてことを考えていると、すぐ真横からシャッター音が聞こえた。振り向くと一眼レフを構えた巡がひよりの写真を撮っていた。


「……お前いつからそこにいた」


「修平くんが『考えすぎか……』って呟いたあたりから」


「なら良しとしよう」


小夏との会話を聞かれていたらめんどくさいことになっていたかもしれない。とりあえず安堵の息を吐き、巡の手から一眼レフを取り上げる。そしてそのまま俺はゆっくりと腰を下ろした。


「……?」


一眼レフを取れあげられた巡は不服そうに頬を膨らませていたが、俺の不可解な行動を見るや今度は不思議そうに首を傾げる。

小夏は俺が何をし始めたのかすぐに察し、呆れたようにため息を吐いた。だが俺は止まらない。妹に呆れられようとも、今はやらねばならないことがある。


「こちらに向かってくる人間を撮る時は立ったまま撮るよりもローアングルで構えた方が迫力のある写真を撮ることができる」


「へ、へぇ? そうなんだ?」


唐突に始まった俺のカメラ講座に、巡は戸惑いの色を隠しきれていなかった。


「動いている被写体を撮る時に単発は避けた方がいい。ダメとまでは言わないが、最高の一枚を撮りたいのであれば、手ブレを最小限に抑えて、最低でも一秒間は連写しろ」


言いながら俺はカメラを連写モードに切り替えた後にシャッターに指をかける。


「な、何してるんですー!? 修平さーん!?」


その頃になってようやくひよりは自分が撮られていることに気づいたらしい。

俺は思わず舌打ちをしたくなる衝動を必死に押さえ込んだ。折角自然体の良い笑顔でいたのに、俺としたことが説明に夢中のあまりシャッターチャンスを逃してしまった。


「あ、写真撮ろうとしていたんですか。ふふふー、こんな姿のひよりを撮ってどうするつもりだったんですかー?」


「今晩のおかずに――いったぁ!!?」


後頭部に激しい痛みが駆け抜ける。何か固いもので殴られたらしい。


「葵雪さん、こんにちはです!」


「ええ、こんにちは。このバカが何かとてつもなく失礼なことを言いかけていたから成敗しておいたわ」


痛みをこらえて振り返ると、満面の笑みでスマホを構えている葵雪と目があった。おま、スマホの角で殴ってきやがったな……。


「まったく、修平くんは変態さんだな〜。そういうのはバレないようにしてほしいんだよ〜」


葵雪の後ろから椛もひょっこりと姿を見せる。

二人とも俺と小夏と同じでジャージ姿で、巡だけが私服姿だったが、半袖にショーパンとかなりラフな格好をしているからバスケをするくらいなら問題ないだろう。


「ところで、何処でやるんだ? この辺にストリートバスケできるところでもあったり?」


「しないですねー。なので今から学校に向かいます!」


ドヤ顔で告げるひより。集合場所をどうしてここにしたのか問い詰めてもいいのだろうか?


「学校でやるのはいいけど、体育館だよね? 今日はどこも部活で使ってないの?」


「今日は大丈夫だったはずです! なので皆さん! ぱーっと遊んじゃいましょう!!」


ご機嫌なひよりを先頭に俺たちは体育館を目指して歩き始めるのだった。



「――おいこらひより? 今日は大丈夫だったはずなんじゃなかったのか? ん?」


体育館に着いた俺たちを出迎えてくれたのは複数人がボールをつく音だった。

実際に中を覗いてみると、部活着を身にまとった女子生徒が数人でバスケの練習をしていた。


「あ、あれれ? おかしいですね……先生に聞いたから間違いないはずなんですけど」


こんなことでひよりが嘘を吐く理由も無いし、大方自主練をしているといったところだろう。


「どうする〜? また別の日にする〜?」


「いや、どうせなら混ぜてもらおうぜ。なぁ、小夏。それでいいだろ? ……小夏?」


我ながらいい提案だと思ったのだが、小夏は何故か睨みつけるように体育館の中を覗いていた。


「……私、あいつら嫌いなんだよね」


「……」


あいつら――。

小夏が人のことをそんなふうに呼ぶのは、今言った通り嫌いな人間を呼ぶ時だけ。

苛立ちの表情を見るに、心から嫌っているっぽいな。まだ転校して日も浅いのに、どんな厄介事に首を突っ込んだんだ?


「正直言うと、あたしもあいつらは嫌いだわ」


「葵雪の知り合いなのか?」


「知り合い……そうね。ある意味では知り合いだけど、ある意味じゃ他人よ。要するに、無意味に関わりたくない」


「なるほどな」


俺は頷いて体育館の中に再度視線を向ける。

自主練をしているようだが、どこか投げやりで真面目にやってるようには見えない。

バスケが好きな小夏から見れば、あまり心地の良い光景ではないだろう。しかし、嫌っている原因はもっと違うところにあるはずだ。


「……あの子たちは私も嫌いかな」


「巡もかよ。なんだ? あいつら不良で有名とかそんなオチか?」


少なくとも俺たちのクラスの連中ではない。他学年の人間の情報はこれっぽっちも知らないけれど、クラスメイトでもない人間を嫌うあたり、それなりに悪名高い連中なのだろう。


「いえ、そんなことは全然無いわ」


「は?」


「むしろ逆なのよ。普段はいい子ちゃんぶっている典型的な雑魚。あたしが一番大嫌いなタイプの人間。長居は無用よ。早く行きましょう」


「あー……なるほどな」


人は見かけによらないというかなんというか、そこまで嫌っている連中と仲良しこよしなんてできやしないだろう。

別に急ぎの用事って訳でもない。時間があればいつでも遊べるのだからと、体育館を離れようとしたその瞬間だった。


「――痛ッ!?」


ビュン――と、風切り音が聞こえたかと思うと、何かがぶつかるような音とひよりの声が重なった。

振り返るとひよりは地面に尻餅をついており、近くにはバスケットボールが転がっていた。


「ひよりちゃん!? 大丈夫!?」


巡と椛の二人が慌ててひよりの元へ駆け寄る。

俺は足元に転がってきたボールを持ち上げると、体育館の中を思いっきり睨んだ。


「おい……お前ら。何笑ってんだ?」


ミスして当ててしまったのなら仕方がないと言える。だが、体育館の中から聞こえてきたのは謝罪ではなく、その場にいる全員の笑い声だった。


「ごめんなさーい。手が滑ってしまいましたー」


「……」


心にも思っていない謝罪だと丸わかりだった。

流石に頭に来た俺は、笑っている女子生徒たちに向かってフルスイングでボールを投げた。


「……ッ!!」


女子生徒の一人が辛うじて受け止めたものの、その瞬間に響いた凄まじい音が受け止めた際の衝撃を示していた。


「……ちょっと、痛いんですけど。謝ってくれませんか?」


「お前らが先に謝ったら考えてやるよ」


「……ふざけんなよ!!」


激昴した女子生徒がボールを投げてくる。俺はそれを片手で止めると同時にいいことを思いついてニヤリと笑う。

折角ここまで来てバスケをしないのは勿体無い。どうせならばこの怒りそのままぶつけてしまおう。


「お前らバスケ部だろ? だったら俺たちとバスケで勝負しろ。負けた方が謝罪をする――これなら文句ないだろ」


「はっ。いいの? こっちがバスケ部だと分かってて、バスケで勝負を挑んでくるとか馬鹿でしょ。今から撤回なんてさせない。ズタボロにしてあげる」


ズタボロになるのはそっちだけどな。

女子生徒たちにバレないように俺は小夏にアイコンタクトを送る。


「……」


小夏は無言で頷いて俺の隣に並んだ。

それを見た女子生徒はニヤリと口元を歪める。


「転校生さんはバスケできるのかなー? まぁいいや。ルールは2:2で先に15点取ったほうが勝ちでどう?」


「構わない」


「ハンデはどうするー? 流石に私たちが本気になったら勝ち目ないからねー?」


ニヤニヤと気持ち悪い笑顔だ。今この瞬間に俺は確信した。俺もこいつらが大ッ嫌いだと。


「ハンデなんていらねーよ。男の力舐めんなよ。いいからとっとと始めようぜ」


そう言いながら俺はジャージを脱ぎ捨てた。

さぁ――試合開始(ゲームスタート)だ。



to be continued

心音です、こんばんは。

さぁ非常に腹立たしいキャラが登場です。今後何度も出てきます。その度にイラつきます。

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