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Life -刻の吹く丘にて-  作者: 心音
Episode of Momizi
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第53話『今やるべきこと』

『――この世界は、同じ時間を繰り返している』


「…………は?」


紅葉が何を言ってるのか全く理解出来なかった。

同じ時間を繰り返している……? ここは現実で、アニメやゲームの世界ではない。

もしそれが世界と秘密なのだとすれば、この世界は一体どうなっているんだ? 何のために繰り返している? そんなこと考えても分からないことくらい頭では理解している。


「……」


でも紅葉の瞳は至って真面目だった。

その目を見れば誰だって嘘を吐いていないということくらい分かるし、信じざる負えないと思ってしまう。


椛はどうだろうと顔を横に向ける。椛には言葉の真偽を見抜く力がある。だから俺のように否定しようとしたところで、頭では本当のことだと分かってしまっているからどうしようもないのだろう。

その証拠に椛は完全に言葉を失い、目を見開いて紅葉のことを見ていた。そしてそれは同時に、紅葉の言葉は冗談ではないということを証明していた。


だが、真実がどうであろうと、覚悟はとうの昔に決めたはずだ。椛との幸せな未来を繋ぐための覚悟を。だから俺は深呼吸を一つして戸惑う心を鎮める。

焦ってはいけない。焦りがミスを生み、もしそれが致命的な事象へと切り替わってしまったら後悔してもしきれない。まずは紅葉の話を聞く。俺がするべきことは話を聞いからでも遅くはないはずだ。


「……信じたくはないが――信じる。本気で椛のことを想っているお前の言葉なんだ。信じるしかないだろ? それに、俺たちのことを嵌めるようなことはしないってことくらい今日のお前の行動を見れば分かる。知らせてくれてありがとうな、紅葉」


そう言えばきちんとお礼を伝えていなかったことを思い出し、タイミングも良かったから椛の危険を知らせてくれたことに関してちゃんとお礼を伝えた。


『……お礼を言われるようなことじゃない』


それを聞いた紅葉は悲しそうに笑った。

覇気のない枯れた声。真っ直ぐに俺たちを見ることが出来ないのか、顔を伏せて言葉を落とす。


『私はこの繰り返す世界で、何度もあなた達を死なせてしまっている。助けられなかったの。繰り返す度に変わる事象。前の世界で起きたからって、次の世界でも同じことが起こるとは限らない。今日の地震だってそう。直前になってからようやく分かった。もっと事前に察することが出来れば対策なんていくらでもしようがあるのに……』


繰り返した数だけ俺たちは命を落としている。

何度繰り返しているのかだけは、正直聞きたいとは思わなかった。


「……紅葉さんはどうしてわたし達を助けようとしてくれるんですか?」


『さん付けはやめて。あと敬語も。あなたが他の人を呼ぶ時のように呼んでほしい。あなたは覚えていないだろうけど、私たちはそんな他人行儀な関係じゃないから』


「……うん。分かったよ、紅葉ちゃん」


椛の言葉にほんの少しだけ紅葉は表情を和らげる。


『私があなた達を助けたい理由はたった一つ。あなた達に恩返しをしたいから。なんの? って思ったと思うけど、それは今は関係ないから全てが終わった後に教えてあげる。でもそうね、どうせ気になるだろうから一つだけ言っておくと、私はあなた達のおかげで救われたの。心から感謝してる』


俺たちが紅葉に何をしたのかは分からない。

けどそれで紅葉が救われ、その恩返しとして俺たちを助けようとしてくれるのであれば、その好意を喜んで受け取ってあげるのが筋というものなのだろう。


『あなた達を助けるために今の私がいる。でも私はこれまで何度もあなた達を殺してしまったし、見捨てたことだってある。それでもあなた達二人を助けたいと思う私のことを――信じてくれる?』


「信じる」

「信じるんだよ」


俺たちは即答した。

何度俺たちが死んだのか分からない。でもその数だけ紅葉は俺たちのことを助けようとしてくれていたのは確かなこと。きっと過去の俺たちだって紅葉のことを信じてきたのだろう。


信じて、死んで。信じては死んで。

俺が死んだ時、椛はどんな気持ちだったのだろう。椛が死んだ時――俺はどうなっていたのだろう。

そして俺たちの死を何度も見てきて、しかもその記憶が残っている紅葉はどんな思いでこれまで世界を巡ってきたのだろうか。

それは記憶の無い俺たちには想像もつかない程の苦痛があるのだろう。焼いた砂で胸を焦がすような耐え難いもの。それを何度も味わうのは拷問と言っても過言ではない。


それでも紅葉は諦めていない。俺たちの幸せな未来のために自分の身を犠牲にしてまで助けようとしてくれる。

紅葉のその自己犠牲の優しさのおかげで俺たちは今を生きている。そこまでしてもらえるほどの何かを俺たちは紅葉な与えたのだろう。


全てが終わり、紡いだその先の未来で、俺たちが何をしたのか紅葉に語ってもらいたい。

そして三人で笑い合うのだ。幸せな未来を祝福するように、これまでの感謝を込めて馬鹿みたいに笑い合いたい。


『――ありがとう、二人とも』


笑いながらお礼を告げる紅葉。

思えば紅葉の笑顔を見たのはこれが初めてかもしれない。椛と同じ顔だけど、椛とはまた違った優しさのある笑顔。不覚にもドキッとしてしまったのは口が裂けても椛に言うことはできない。


「この世界の秘密っていうのをもっと詳しく説明してくれないか? 俺たちは紅葉と違って分からないことが多すぎる」


『そのことに関しては申し訳ないけれど、これ以上話すことはできない。そういうルールがこの世界にはあるみたいなんだよ。話そうとしても話せない。多分この感覚は私にしか分からないものだと思う』


「そうか……分かった。一応聞いておくが、初めて俺と紅葉が会った時、お前は俺に自ら思い出してほしいって言っていただろ? あの時も俺は似たようなことを聞いたと思うんだが、その時は確か理に触れることになるとか言っていたよな。どうして今回は話すことができたんだ?」


あの日のことは今でも鮮明に思い出せる。

紅葉はこの世界は嘘で満たされていると言い、自分から思い出して欲しいと言っていた。しかし今日、この世界が繰り返しているということを教えてくれた。


『少しでも何かを覚えているかもしれないという希望を持っているから。そう言うことで自ら思い出してくれる世界も少なからず存在した。そしてその世界はほんの少しだけいい方向に進んでいたんだよ。今回の世界では思い出すことはなかったみたいだけどね』


そこで一旦言葉を区切り、けど、と一息ついてから言葉を続ける。

真っ直ぐにこちらを見据える瞳は真剣。けれどそれ以上に悲しみが宿っていた。


『記憶が戻った世界はある意味、他の世界よりも死が悲惨だった。今二人はこの話をしても比較的冷静さを保っていてくれている。だけど毎回こうとは限らなかった。さっきも言ったけど、繰り返される度に事象は変化していく。たくさんの死を経験してきた。その中でも一番悲惨で、一番辛かったのは……あなた達が自殺を選んだ時だった』


自殺――。

その言葉は鉛のように重く、俺たちにのしかかる。

他人事ではない。世界が違うとは言えど、自殺をしてしまったのは俺たち自身なのだから。


「……死にたくないんだよ」


切実に呟く椛の肩を抱く。

けど先程とは違い、震えてはいなかった。


「大丈夫なんだよ、修平くん。今のわたしはそんな選択を取らないよ。死にたくないって思いは確かだけど、自ら命を断とうとはしないんだよ。もしこの世界で……もし、未来を繋げなかったとしても、わたしは最後まで修平くんのそばに居る。最期の瞬間まであなたのそばに寄り添っていたいんだよ」


椛の俺を想う気持ち。

これは恋ではない。愛なのだろう。

こんな素敵な女の子に愛してもらえて俺は幸せ者だ。


そして俺も椛と同じ意見だった。

どんな悲惨な未来が待ち受けていようと、心が壊れてしまいそうなっても、俺のそばには椛がいる。椛のそばには俺がついている。


『私としては未来を繋げないことは、もう二度と想像したくないから感動的なセリフだと思うけど、できれば遠慮してほしいかな』


「……紅葉ちゃん、うるさい」


『ちょ』


あからさまな反応をした後に紅葉はごほんと咳払いをする。


『……とりあえずよ。これからも今日みたいなことがあなた達の身の回りに降り注ぐわ。世界があなた達を殺そうとしているからね。来るべき日――その日が過ぎるまで生き残ることができれば私の役目は終了。あとの未来はあなた達が自由に描けばいい』


「一つ気になっていたことがあるんだが」


それはこの話を始めてからずっと気になっていたこと。この世界の理に触れるであろう最大のこと。






「――誰がこの世界を、繰り返しているんだ?」






俺の言葉に紅葉は目を見開いた。

驚いているというよりは戸惑っているように見えた。


『……どうして、誰かが繰り返しているって思ったのかな?』


「いや、これはあくまでも俺の勘なんだが、そんなあからさまな反応をされると確定みたいだな?」


『言葉の裏をかく前に説明を要求するよ。いやもうこの際、誰かが繰り返しているってことは認める。でも普通そんな摩訶不思議なことを人間が起こしているなんて思わないでしょ』


「いや思うだろ。そもそも今の状況が摩訶不思議なんだからな」


信じられないことだらけだけど、信じざる負えないのだから、そうなると見える景色が変わってくる。


「なぁ、紅葉。この世界の秘密に巡と小夏は関係しているのか?」


『……それは私の口からは言えない。それこそがこの世界の理だからね。でも、勘のいい修平のことだから私のこの解答でもう察することが出来るよね』


「あとは自分の口から聞けってことだな」


紅葉は無言で頷くと今度は椛の方を向いた。


『椛も色々と察しがついているみたいだから修平と一緒にやって欲しい。実のところ、これまでの世界で理に触れようとしたことは無い。もしかしたらこれまでに無い結末を迎えることが出来るかもしれない』


「分かったんだよ。わたしは修平くんと一緒に、この世界の秘密について知っているであろう、巡ちゃんと小夏ちゃんと話をしてみるんだよ」


『それとこれはあくまでも提案なんだけど、いつ何が起こるか分からないというのは今日のことで分かったはず。だから二人にはなるべく一緒にいてほしいんだよ』


「……というと?」


何やら雲行きが良いような悪いようなよく分からない方向へ進みつつあるような気がしてきた。


『簡単なことだよ。何があってもいいように、二人で一緒に暮らしてくれないかな?』



to be continued

心音ですこんばんは!

ちょっとグダってますが、そろそろ椛ルートも完結となります。最後までお付き合いのほどよろしくお願いします。

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