表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Life -刻の吹く丘にて-  作者: 心音
Episode of Momizi
45/166

第44話『みんなで和菓子』

「……」


午後の授業の内容はほとんど頭に入っていなかった。

窓の外を眺めながら俺は昼休みに聞こえたあの声のことをずっと考えていた。


『――お願い。未来を……繋げて』


この声はあの幽霊と何か関係があるのだろうか。

もし関係があるのだとしたら、一体俺に何を伝えようとしている? あんな辛そうで、泣きそうな声で……俺に何を求めている? それにあの声……似ていた(・・・・)


「……」


俺は窓の外から教室へ。そして眠そうにしながら授業を受けている椛へと視線を移した。

そう。俺にだけ聞こえてきたあの声は椛にそっくりだった。そしてあの幽霊もまた……椛に似ていた。何もかもが椛と関係している。だからきっと……これはあくまでも予想。でもこれからも起こるであろう不可解な現象は全て椛と関係するような気がした。


再び視線を戻す。青く澄み渡る空を見つめながら俺はため息を吐いた。この町に来てから何度目のため息だろう。たった二日で二ヶ月分くらい吐いているような気がする。

同じことを考えすぎているせいで頭がいっぱいいっぱいになっていた。何か気分転換に別のことを考えた方がいいかもしれない。というかむしろ考えるのをやめようぜ俺。


形だけ授業を受けてますよアピールをする為に広げていたノートと教科書を机の端にどかし、空いたスペースに顔を伏せる。

仄かに香る木の香りとほんのりとした冷たさが眠気を誘う。このまま放課後まで眠ってしまおうと目を閉じたその時、脇腹に何かが突き刺さった。


「――――っ!!」


授業中であることを考慮して声を抑えたのはいいが、跳ね上がった体が盛大に机にぶつかった音が盛大に響き渡る羽目になった。

突き刺さるクラスメイトの視線の痛みとぶつけた箇所の痛みに耐えながら俺は脇腹をつついた犯人である巡を睨みつける。

巡は必死になって笑いを堪えているらしく、口元を手で抑えてプルプルと肩を震わせていた。とりあえず一番冷たい視線を俺に送る教師に軽く頭を下げて事を穏便に済ませる。


「巡てめぇ……何しやがる」


「ふふっ、ごめんね。まさかそんな反応するとは思わなくって」


悪気があったとしても許せてしまいそうな顔で笑うもんだから俺はそれ以上文句を言うことが出来ず、行き場を失った怒りを髪をガシガシと掻くことによって誤魔化した。


「……で? 何の用だ。人が気持ちよく寝ようとしていたのに」


「起こしてあげようかなって思――ごめんごめん。その振り上げた拳を下ろして落ち着いてくれるかな!?」


教師にバレない程度の声量で必死に訴えかける巡。俺は仕方なく拳を下ろしてあげることにした。

俺から敵意が完全に消えたところでようやく巡は安心したのか、ちょいちょいとノートを指差して見て欲しいとアピールしてくる。

体勢を少し浮かして覗き込んでみると、問題文が幾つか書かれているのが、解答欄として空けといている箇所が見事なまでに空白だった。


「……お前、数学苦手なのか?」


ザッと問題文を読んでみたのだが、わりと基礎的なところで躓いている。ここら辺が分からないとなるとこの先の応用問題は到底手がつけられないだろう。


「肌に合わない化粧品ってあるでしょ? 私の場合通販で買った化粧品セットの内容物全てが肌に合わなかった感じかな」


「例え方が正直言って良く分からなかったが、言いたいことは何となく伝わった。つまり全教科苦手だから教えてくれ。そういうことだろ」


「さすが修平くん。察しがいいね。とりあえずこの問題から教えてくれないかな?」


「はいはい……。だけど答えは教えないからな。俺が教えるのはあくまでも解き方だけだ。答えは自分で導き出してこそ意味がある」


数学だけじゃない。全ての物事は自分で解決してこそ成長していくことが出来る。

ただ誤解しないで欲しいのだが、何でもかんでも一人でやれと言っている訳ではない。時には一人じゃどうしようもないことだってあるだろう。そんな時は誰かに頼り協力して解決策を見つける。そうすることで自分だけではなく、その誰かも共に成長していくことが出来るのだから一石二鳥だ。

そして当然のように誰かに頼ってばかりいたら何も成長はしない。そんな人間は一生誰かに迷惑をかけ続けるだけの虚しい人間になってしまう。俺は巡をそんな人間にはしたくなかった。


「厳しいんだなぁ。でも解き方を教えてくれるだけでも充分嬉しいよ」


「というか……これは単に教科書に載ってるこの公式を当てはめればいいだけだぞ。求めるのがこれならこっちの公式に代入すれば答えが出る」


「なるほど。言われてみればそうだったよ」


公式の使い方が分かると巡はスラスラと他の問題も解いていく。飲み込みは早い方らしく、これならば特に教えずとも余裕で解き終わるだろう。


やることを終えた俺はもう一度机に突っ伏す。

さっきみたいにすぐ眠気は来なかったが、それでも気付かぬうちに俺は睡眠の世界に身を委ねていた。



「――修平くん」


微かに感じる甘い香りと肩を揺すられる感覚に目を開けるとすぐ近くに椛の顔があった。


「あ、やっと起きたんだよ〜。もう放課後だよ〜?」


「ああ……もう放課後になっていたのか」


重たい瞼を窓から射し込んでくる光に当てて無理矢理醒させると、固くなっていた体を解すように思いっきり伸びをする。

一瞬襲ってくる立ちくらみのような感覚に耐えながら俺は椛の方へ向き直った。


「おはよう……いい朝だな」


「放課後なんだよ? さっき自分でも言ってたよね〜?」


「まぁそれはさておき、小夏が来るの待ってから帰るか」


「あ、そのことなんだけどね? この後みんなで甘狐処に行こうって話になっているんだよ〜。前に話した甘味処〜」


甘狐処――。

和風喫茶店と謳っているがその実態はただの甘味処。椛の行きつけのお店らしく、近いうちに一緒に行こうと約束していたことを思い出す。

どうせ放課後は特にやることもないから暇だ。強いて言うなら家の片付けをしなければならないのだがそれは別に夜にだってできる。


「みんなってことは俺と小夏は確定として、巡と葵雪……それとひよりか?」


昼休みに仲良くなった後輩の名前も出しておく。

特に約束している訳ではなさそうだが、あのノリの良さから考えるに暇ならついてくるだろう。


「正解なんだよ〜。今日はみんなに甘狐処の魅力をたっぷりとアピールするんだ〜。お団子、お饅頭、ぜんざいに杏仁豆腐〜♪ あ、葛切りも捨て難いんだよ〜」


「それ全部、椛が食べたいだけだろ……。というか涎垂れそうになってるぞー? 女の子としていいのかー?」


和菓子ワールドに意識を持っていかれそうになっていた椛は俺の言葉で我に返ったらしく、大慌てで若干垂れかけていた涎を拭う。

その慌てぶりが面白くて俺は思わず吹き出してしまった。ほんわかと笑って誤魔化そうとする椛だったが少し恥ずかしかったのか頬が紅くなっている。


「危なかったんだよ……。わたしとした事が甘味の闇に飲まれて戻れなくなるところだったよ〜」


「……なんか椛って和菓子で釣ればどんな所でもほいほいとついて行きそうで心配だわ」


「さ、さすがにそれはないんだよ!? 確かに和菓子は魅力的だけど子どもじゃないから大丈夫だよ!!」


必死になって否定するところが可愛らしい。

和菓子の事となると椛は自分を見失う傾向がある。遊びに誘う時に和菓子で釣る作戦を練っておく事にしよう。


「お兄ちゃーん! 皆さーん! お待たせ致しましたー!」


小夏とひよりが教室に入ってくる。

昼休みの一件で小夏が俺の妹であることはクラスメイト一同に知れ渡っており気にする人は皆無だった。


「……ふと思ったんだが、いつの間に食べに行くことに決まったんだ?」


「メッセージを見れば分かるんだよ〜。授業中にやり取りしていたんだけど修平くんは爆睡だったからね〜」


言われてメッセージを確認してみるとそれなりの件数が溜まっていた。今更ながら既読を付けてスタンプだけ送信するという意味の無い行動を取った後にスマホをポケットに戻す。


「それじゃあ全員揃ったところで出発進行なんだよ〜」


椛の元気な掛け声と共に俺たちはぞろぞろと移動を開始した。初めから思っていたことでもあるが、この光景を見て再度認識する。

俺は転校してから女の子に恵まれすぎていると。後一人が妹であることを除かずともお世辞抜きで可愛い女の子が周りにいるのは実に素晴らしい。


甘狐処に移動中は他愛ない話をして親睦を深める。

誰と話しても楽しいと思えるのだが、やっぱり椛と話す時だけはより楽しく感じることができる。

この町で出来た初めての友達という点を除いたとしても俺と椛の仲は上々だと思える。それに俺の中で友情以外の感覚が芽生え始めていた。

これはきっと好きという感情。本気で人を好きになったことのない俺だが、椛に抱く想いが恋愛感情であることは間違いないと思う。

出会いであんな事があったわけだが、結局俺は椛に一目惚れしていたのかもしれない。


それに昨日の事もある。

繋いだ手の温もりはまだ残っているようだった。絡められた指、ぴったりと重なっていた手のひらから伝わってくる緊張は今思い出すだけでもこそばゆい気持ちになってくる。

これはあくまでも俺の妄想なのだが、もしかしなくても椛も俺に気があると思う。昨日の言葉と行動がそれを証明しているような気がした。あんな事言われてしまったらそう思うのも仕方ないことだろう。


「着いたんだよ〜」


そんなことを考えているうちに甘狐処に着いていた。

随分のんびりと来たのだが客は俺たちしかいないらしくちょうど六人用のテーブルに座ることが出来た。

しかしこの店……雨降ったらまともに営業出来ないのではないだろうか……。


「わたし達は食べるの決めてるんだよ〜。修平くんはどうする〜?」


「ありゃ、いつの間に」


俺が考え事をしている間に他のメンツは食べるものを決めていたらしい。俺は数秒悩んだ末、杏仁豆腐とほうじ茶を頼むことに決めた。

椛に伝えるとグッと親指を立ててこちらを見てニコニコと笑っていたおばちゃんのところへ注文しに行く。常連ということもあってか、おばちゃんはオーダーの品を用意しながら椛と仲良さげに話をしていた。


「ほぼ毎日通い詰めているだけあってほんと仲良いわね」


「ほぼ毎日!? 小此木さんって和菓子大好きなんですね……」


そういえば昨日、どこからともなく団子が出てきたのを思い出す。もしかしたら常に和菓子を携帯しているのかもしれない。


「椛ちゃんは多分三度の飯よりも和菓子一食の方が幸せなんだよ。一年の頃から椛ちゃん見てるけど、和菓子を食べている時の表情は本当に幸せそうだもん」


ほら、と巡がスマホの画面をこちらに向ける。

そこに映っていたのは満面の笑みで団子を頬張る椛の姿だった。机に山積みにされている空いたプラスチックの容器。まさかこれ全て団子が入っていたとか言わないよな……?


「みんな〜。お待たせなんだよ〜」


やたら上機嫌な椛の声が届く。

そこにはおばちゃんと一緒に注文した品を持ってきている椛がいた。


「手伝うぞ」


俺は席を立っておばちゃんが運んできている飲み物類を受け取った。みんなが頼んだ飲み物はバラバラで芳ばしかったり甘かったりと様々な香りが混ざりあっている。


「おやおや、ありがとね。それじゃあごゆっくり」


おばちゃんはそう告げると元いた場所に戻った。

あの位置はおばちゃんにとって絶好のポジションなのだろう。あそこならば客席の全てを見通すことができる。笑顔が一番見れる場所なのだ。


テーブルに和菓子と飲み物を並べて手を合わせる。

楽しいおやつタイムの始まりだ。俺はまず先程からいい香りを漂わせているほうじ茶に口をつける。


「うん。美味い」


市販のほうじ茶とは比べ物にならない深い味わい。芳ばしさの中に仄かな甘さがあり二口、三口と飲んでも同じ味わいが口の中に広がった。

次にメインの杏仁豆腐をスプーンで掬う。杏仁豆腐と言えばぷるぷるとしているイメージがあるがこれは違った。ふわっとした柔らかさ。口の中に入れると溶け込むようにじんわりと味が染み込んでいく。このふわっとした感触は恐らくアーモンドエッセンスを使って作っているのだろう。

乗せられたフルーツも杏仁豆腐の魅力を引き立てている。飾り方がとても綺麗だった。見た目も味も良い。ここの杏仁豆腐は絶品と確信する。


「どうどう修平くん〜? とっても美味しいでしょ〜」


「ああ。これは病みつきになりそうだ」


「喜んでもらえて何よりなんだよ〜」


椛は嬉しそうにしながら自分の頼んだ葛切りを食べ始める。一口食べるごとに表情が蕩けそうになっていくのは見ていて面白い。


「あれ? お兄ちゃん。さくらんぼ食べないの?」


杏仁豆腐のてっぺんに乗っていたさくらんぼ。

小夏は俺がいつまで経っても食べないのを見てそう訊ねてきた。


「私それ好きなんだよね。嫌いなら食べてもいい?」


「ん、あー。別にいいぞ」


本当は好きだから最後まで取っておいたのだが、目をキラキラと輝かせる小夏のお願いを無下にすることは出来なかった。


「俺、このさくらんぼはそこまで好きじゃないんだ」


「えっ?」


その一言は椛から。驚いた様子でこちらを見つめてくるが俺はその真意を読み取れず首を傾げる。


「あ……。な、何でもないんだよ〜」


「? そうか? ほれ、小夏。食え食え」


「ありがとうお兄ちゃん! いただきます!」


ひょいっと器からさくらんぼを取ると小夏は一口で食べる。美味しそうに食べるその姿を見るとあげた甲斐があったというものだ。


「……」


椛は何か言いたそうにちらちらとこちらを見ていた。

しかし俺はあえて触れることはせずにみんなとの会話に花を咲かせ始めるのだった。


何かあるのならきっと、椛のことだから俺に話してくれるだろう。俺はその時を待つことに決めた。



to be continued

心音です。こんばんは!

今回は前半に巡との話を。後半にはみんなで甘狐処で和菓子を食べるだけという話でした!

最後、椛が何に対して、えっ? と言ったのか。それはすぐに分かるかと思われます。


それでは次のお話でまたお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ