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Life -刻の吹く丘にて-  作者: 心音
Episode of Hiyori
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第37話『夢の時間』

ジャーキングという現象を知っているだろうか?

寝ていると急に体が落ちていくような感覚がしてビクッと目が覚めるあれだ。名前こそ知られていない現象だが一度くらいは経験したことがあると思う。


さて、なんで俺が何の前触れもなくジャーキングについて話したのか。それにはちゃんとした理由がある。

細かいことを省いて簡単に説明すると、俺は今ジャーキングを経験して目が醒めた。妙にリアルな感覚に戸惑いながらも夢であったことに安心したのだが、問題はその後にあった。


「……ここ何処?」


そう、夢から醒めたはずなのに俺は自分のベッドで寝ているわけではなく、生い茂る緑が埋め尽くす草原のような場所に寝転がっていたのだ。

一瞬、今流行りの異世界転生でもしてしまったのかと思ったがあまりにも非現実的な考えだ。おそらく俺はまだ夢の中にいるのだろう。


辺りを警戒しつつ俺は身を起こす。そこで初めて気づいたのだが緑の中にはたくさんの風車が植えられていた。

その一つ一つがまるで風でも吹いているかのようにくるくる、くるくると回っていた。実際は風なんて吹いていない。とても不思議な光景だった。

夢の中だからこそ納得できる光景だが、もし仮に現実で見れるものならば是非ともこの目で見てみたいものだ。


「――久しぶり」


澄んだ声が俺の耳に届いた。

声のした方へ顔を向ける。そこには初めて見る少女が懐かしい(・・・・)笑顔を浮かべて立っていた。

風に靡く黒い髪から漂ってくる柔らかい香り――俺はこの香りを知っている。脳がそれを記憶していなくても、本能が知っていると訴えかけていた。


「ううん、違うね。初めまして――かな?」


「……久しぶりでいいんだと思う」


「え?」


ぽかんと、少女は口を開けた。

有り得ないことが起きた――そんなことを言いたげな顔だった。


「俺は……お前に会ったことがあるような気がする」


今の俺のセリフを傍から聞けば、一昔前のナンパ師の臭いセリフそのものだったけど俺はふざけているわけではない。


太陽の光に反射してブラックオパールような輝きを放つ漆黒の長い髪。海の色を映したように透き通った青い瞳は真っ直ぐに俺のことを捉えていた。


「……そっか。こういうこともあるんだね。君は私のことを覚えているんだ。じゃあさ、一つだけ聞いてみてもいいかな?」


「俺に答えられることならば」


「ありがとう。大丈夫、とても簡単な質問だよ。難しく考える必要は無い。知っているかいないかで答えてくれるかな?」


俺が頷くと少女はもう一度だけ、ありがとうと口にしてゆっくりとした動きで俺に背中を向け、それからほんの少しだけ顔を上げる。どうやら空を仰ぎ見ているようだった。

何となしに俺も少女と同じように空を見上げてみることにした。そうすれば何を考えているのか分かるような気がしたからだ。


「花澤ひよりって女の子を……知っている?」


花澤ひより……聞いたことのない名前だった。

でも何故だろうか……その名前を聞いた瞬間、胸の辺りが締め付けられるように苦しくなった。

頭をフル回転させてその名前を思い出そうとする。けれど茨で覆われている道を突き進むような痛みを感じてすぐに考えることをやめる。


「……知らない」


思い出せないことに妙にむしゃくしゃしてしまい素っ気ない返しになってしまった。

けれど少女は俺の返答なんて全く気にしていない様子で空を見つめたままでいる。まるで俺がそう答えるのを予め予想していたようで……少し不気味だった。


「ここはね、始まりの夢なんだよ」


「始まりの夢……?」


「そう。全てが始まる夢。私と修平くん(・・・・)が出逢う特別な場所でもある」


――修平くん。

当たり前のように俺の名前を知っている少女。名前だけではない。きっとこの少女は俺のことならばなんでも知っているのではないだろうか。


「――時間だよ」


顔だけこちらに向けて少女はだらんと手を下ろす。

その右手にはいつの間にかこの草原に植えられているのと同じ風車が握られていた。


「修平くん、一つだけ私のお願いを聞いて」


さぁぁと一際強い風が吹いたその瞬間、不思議な事が起きた。あんなに回っていたはずの風車がピタリとその動きを止めたのだ。その代わり今度は少女の持っていた風車が勢いよく回り始める。


「私のことを――信じて」


儚げに笑い少女はそう告げる。


「私が絶対に君のことを救ってみせる。永遠に続く夢を繰り返して、必ず幸せな結末に辿り着いてみせるから」


俺を救うとか、夢を繰り返すとか、何を言っているのかさっぱり分からない。

けれど信じてもいいと思ってしまった。彼女がそれを望むのであればそれに応えなくてはならないと思ってしまったのだ。


「きっと今の修平くんは何も知らないだろうし、ここでの出来事はすぐに忘れてしまうと思う。だけど、お願い……私のことを信じて……修平くん」


「――信じる」


たった一言。それに俺の気持ちの全てを乗せて返す。


「……ありがとう。その一言で私は頑張れる」


手に持っていた風車を空へと放つ。

まるで意志を持っているかのように風車は空の彼方へぐんぐんと上っていく。






「――さぁ、始めよう。次の夢を」






to be continued

心音です、こんばんは。

はい。これでひよりルートは終了となります。

今後の展開は……予想、できますよね?

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