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告白



 蒼くんの部屋は夕べのままだった。


「何か飲む?」


 コーヒーを下さいとだけ言った。

 台所でかちゃかちゃ音がしている。蒼くんがインスタントコーヒーを入れている間、僕はわけが分からなくて頭を抱えていた。

 琢也が好きだと思っていたら、他に好きな人がいた。

 琢也とは高校時代付き合っていて嫌がらせをされて、女嫌いになった。

 そして、今は他に好きな人がいる。

 ぐるぐるまわる頭を使って、今すべき事は何だろうと僕は考えた。その時、蒼くんが目の前に立っていた。いつの間にこんな近くにいたのだろう。驚きすぎて声が出なかった。


「康平、男前だよな」


 唐突に彼が言った。


「は? そ、そんな事ないよっ」


 慌てて首を振ると、蒼くんは隣にどっかりと座るなり、僕の前髪に手を伸ばした。


「茶色だ」


 僕の顔に彼の息がかかる。僕は息ができなくて窒息しそうになりながら、かちこちに強ばった。


「あ、うん。水泳をやっていたから、塩素で髪の色が抜けて……」

「今もやってんのか?」

「うん。家の近くにスポーツセンターがあるから、休みの日はよく行く」

「今度俺も誘ってよ」

「いいよ」


 さりげなく体を離してから、僕は一息ついた。

 いきなり接近されたらどうしていいか分からない。

 それなのに蒼くんは悠長にコーヒーを飲み始めた。それどころか、なぜか僕の肩に頭を乗せてくる。


「ど、どうしたの? 蒼くん、変だよ」


 コーヒーなんて味がしない。僕はしどろもどろに訊ねると、彼は首を振った。


「康平……」


 しばらくコーヒーを飲んでいた蒼くんがしんみりと言った。


「相談があるんだ」

「相談? え、あ、うん。いいよ」


 僕はコーヒーを床にそっと置いた。蒼くんはほっと息をつくと、カラになったカップを流しに戻しに行って、すぐに戻って来た。

 戻って来た彼の顔を見て僕は拍子抜けした。


「どうしたの? 何で泣いているの?」


 彼は大きな瞳からぽろぽろと涙を流していた。


「どうしたの? どこか痛いの?」


 僕はパニックになり、立ち上がった。


「好きなんだ……」

「え?」


 肩を抱こうか、背中を撫でようか迷っていた手が止まる。


「ずっと好きな人がいてその人はいろんな人と付き合っていて、どの人が本命なのか分からない」


 涙を零す彼の口からとんでもない言葉が吐き出された。僕は手が震えた。


「俺は、そいつをあきらめるにはどうしたらいいか分からなくて……すごく辛い」


 蒼くんはそう言ってから僕を見上げた。


「ねえ、どうしたらいいと思う?」


 食い入るように見つめられて、僕はめまいがしそうだった。


「そ、蒼くん……」


 この僕に何が言えるというのだろう。


「何?」


 蒼くんが可愛い仕草で、僕を苦しめる。


「蒼くんはその人が好き…なの?」

「うん。そいつが好き」

「男なんだ……よね…」

「うん……」

「そっか……」


 僕はすっかり度肝を抜かれてしまい、脱力した。






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