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余地




 昨晩眠れなかったせいで、起きたら二人とも疲れた顔をしていた。

 蒼くんが作ってくれた朝食を瞬く間に平らげ、二人で仲良く学校へ行った。

 昼は一緒に食べようと約束をして、授業が終わった後、僕はすぐに食堂へ向かった。

 蒼くんはまだ来ていない。食堂はがら空きだったので蒼くんを探そうと思い携帯電話で連絡をとろうとした。するとちょうど向こうから蒼くんが歩いてくるのが見えた。

 僕は大きく手を振った。すると、蒼くんの後ろから、やたら髪の長い女が現れて勢いよく彼を突き飛ばした。


「あっ」


 僕は思わず声を上げた。

 蒼くんが手を付いて転ぶ。


「蒼くんっ」


 駆け寄ると、彼は地面に手を付いたまま放心している。どこか擦りむいたみたいで顔をしかめると、僕が差し出した手につかまって立ち上がった。手のひらに血がついていた。


「大丈夫?」


 心配そうに顔を覗き込むと、蒼くんは僕を見てほっとした顔をした。

 彼はこれ以上ないくらい緊張していた。肩に手を置いてみると、かちこちに強ばっている。


「平気だから……」


 手をこすりながら言う顔はちっとも平気ではない。僕はむんずと彼の手首をつかんだ。


「どこに行くんだよ」


 蒼くんがびっくりしている。


「僕の家」

「え?」


 蒼くんが面食らった顔をする。


「この後、授業はある?」


 僕が訊ねると、蒼くんは首を振った。


「後は五時間目だけ」

「僕の家はすぐだから、少しだけ休めるでしょ」


 有無を言わさず彼の腕を引っ張ると、何となく蒼くんが安堵している気がした。


「ねえ、蒼くん」

「何?」


 蒼くんは僕に必死でついて来ている。僕は少し歩く速度を遅くした。


「もしかして…こういう嫌がらせ初めてじゃない…?」


 蒼くんの顔がこわばる。


「見たんだよ」 

「な、何を……?」


 蒼くんの手がびくっとした。

 僕は彼の手を離したくなくて部屋につくまで握りしめていた。


「わざとぶつかったの女の子だった。あれ、琢也の女だ」

「女? 女の子だったの?」


 蒼くんが足を止めた。


「そっか」


 振り向くと、蒼くんが呆れたようにくすっと笑った。


「何がおかしい」


 僕はくすくす笑う彼を見てムッとした。


「だって」


 蒼くんはお腹を押さえた。


「すごい力だったんだ。まさか、女の子だなんて……怖いね」

「怖いじゃないよ」


 僕ははあっと息を吐いた。


「もしかして、僕は大きな勘違いをしていた?」

「え?」

「僕は君が琢也の事を好きだと思っていたけど、本当は琢也が君の事を好きだったんじゃない?」


 何となくおかしいと思っていたのだ。琢也が蒼くんに異常なくらい執着している。

 僕が言うと、蒼くんはふっと笑って首を横に振った。


「違うよ。俺が告白したんだ。琢也の事が好きだったから。でも、振られた」

「じゃあ、なぜ蒼くんが女の子に嫌がらせされるんだよ」

「俺と琢也は、高校の時付き合っていたんだ」


 衝撃的な話に僕はどしんと後ろから突き飛ばされた気がした。


「……え?」


 声が出るまで数秒かかった。


「でも、琢也のファンの女の子に集団で詰め寄られてさ、それで琢也と別れたんだ」

「な……何かされたの?」

「何もされないよ。俺、男だよ」


 蒼くんは力なく笑った。


「でも女の子は怖い。琢也には本当の事は言っていないけど、あの頃、生傷が絶えなかったから。琢也はうすうす気付いていたのかも知れない。だから、別れてからも過保護な親みたいに俺にかまうんだよ。逆効果なのにさ」

「まだ……好きなの?」


 僕は訊ねたけど蒼くんは答えてくれなかった。


 二人が付き合っていた事は二重のショックだった。しかし、それ以上に、不本意な形で二人は別れたのだと知って僕には何も言えなかった。


 何だ…。最初から僕の入る余地はなかったんだ。





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