対面
しかし、今さらなかったことにできず、僕はすぐに篤史に連絡を取り、会ってもらう事になった。
二人きりにするつもりだったのに、蒼くんは二人きりは嫌だと言った。
僕としては、好きな人が誰かと一緒にいるところなんて見たくない。でも、蒼くんはそんなこと知らない。
せっかく誰もいない教室で、蒼くんは黙ったままだった。
篤史は、ひとつ年上でバイセクシャルでもあった。
モデルをしているだけあって、スタイルは抜群にいい。いつもジムに通っているので剥き出しの腕はたくましく、身長はそんなに変わらないが、並ぶと僕の方が見劣りしてしまうので、あまり近寄りたくはなかった。紹介しておいてなんだが、比べられそうで居心地が悪かった。
篤史は、僕が小学生の頃から男しか好きになれないのをいち早く気付いて、いろいろ教えてくれた。傷つかないですんだのは、篤史のおかげでもある。
中学と高校時代、周りの友人はホモを毛嫌いしていた。
無理もない。
僕は共学だったし、女の子とキスの話で盛り上がっている中で、男とキスをしたいなんて誰も想像しないだろう。次元が違う。
友達が女の子に夢中になっている中、僕は篤史にいろんな男の人を紹介してもらった。だから童貞ではない。ついでに、男同士で本気の恋愛が難しい事も知った。
体だけの関係で何人も知り合ったけど、そう言えば蒼くんに出会ってからは誰とも関係していない。
自分でも驚きだが、蒼くんに夢中になり過ぎていた。
先日、篤史に話したら、面白そうだなと承諾してくれた。今は恋人もいないし、付き合ってもいいとまで言った。
僕はその時どんな顔をしていただろう。鏡がないから分からない。
蒼くんと対面してから数秒後、大衆向けの笑顔で篤史がほほ笑んだ。
「こんにちは」
篤史の言葉に蒼くんが小さく頷いた。
「こんにちは……」
西日が差し込む教室で、男三人が立ったまま顔を合わせているなんて滑稽だ。
今になって、どうして外で待ち合わせをしなかったのだろうと悔やんだ。
「康平から聞いたよ。でも、何で俺なわけ?」
篤史の言葉に僕は目を剥いた。
な、何を言い出すのだっ。
すると、ニヤニヤしながら篤史が僕の顔をチラッと見た。口が動く。
(めちゃくちゃ可愛い子だな)。
思わずムッとする。
「康平ってもてるんだぜ」
出し抜けに篤史が言った。
蒼くんがびくっとして僕を見た。僕は背筋がひやりとした。
「こいつがゲイって知ってるの?」
「え……?」
僕はつま先まで冷たくなった。
「篤史……」
ふざけるなと言おうとしたら、蒼くんがかすれた声で言った。
「し、知りませんでした……」
青ざめて見えるその白い肌を見て、僕の胸がずきんとなった。
「君も試してもらったら?」
「篤史っ」
「お前がやればいいじゃん」
「は?」
いきなり何を言い出すんだ。
「別に俺じゃなくてもお前の方がうまいだろ」
蒼くんが言葉をなくしている。
「お前の方が絶対いいって。彼は、俺の事なんて好きでもないだろうし、康平はたくさん経験積んでいるから、俺よりうまいぜ」
僕の気持ちが見透かされているのは分かっていたが、まさかこうやって攻めてくるとは思わなかった。
僕はうろたえながら蒼くんを見た。蒼くんは俯いていてつむじしか見えない。
「じゃあな。お前らくだらない事に時間を費やしてんじゃないよ」
篤史は教室を出て行く。
取り残された僕はどうしていいか分からなかった。
「康平って、男が好きなの……?」
「え?」
「はっきり言えよっ」
顔を上げた蒼くんの目は怒っていた。
なぜ彼は怒っているのか。どうしてこんな事になってしまったのか、僕にはもう分からなかった。




