郵便
バイバイってどういうことだろう。
パニックになった僕が最初に起こした行動は、電源を入れて蒼くんに電話する事だった。
直接顔を見て、話ができないなら、電話で話がしたかった。
電源を入れたとたんに着信が入る。僕は驚いて思わず出てしまった。相手は遊び相手だった。
『俺だけど、シカトすんなよな』
不機嫌な男は開口一番にそう言った。
「悪いけど今取り込んでいるんだ」
焦って切ろうとしたが、
『電話くれたんだろ。やってもいいけど』
という言葉に、きょとんとする。
「やるって何を?」
『ふざけんなよ。たまっているから、やらせろと伝言入れたのお前だろっ』
恐ろしい事に、僕はすっかり忘れていた。
「ごめん。僕はどうかしていたんだ」
『……』
相手はムッとしたらしく電話が切れた。僕は自己嫌悪に陥りながら、もう一度電話しようとすると、今度は違う相手からかかってきた。
『康平? 僕でよかったら相手になるよ』
僕はすかさず電話を切った。それから、メールや着信が入り、僕は顔を上げられないほどに打ちのめされた。
立ち直れずにぼうっとしていると、部屋のドアがノックされた。
僕は身動き一つせず、言われた言葉や蒼くんの唇の感触を思い出していた。
「すいませんっ。郵便ですよっ」
外から威勢のいい郵便配達の局員の声がする。
郵便? 僕はのろのろと起き上がるとドアを開けた。不機嫌な顔をした局員が僕に配達物を押し付け
て、ボールペンを差し出した。
「春井康平さんですか? サイン下さい」
「はい……」
僕は名字を書き込んで、受け取った郵便物を見て目を瞠った。
「あっ」
一気に正気に戻る。それを引っ手繰り部屋のドアをばたんと閉めて、床に飛びつくように置いて包装紙をびりびり破って開けた。
中から現れたのは、なんと百個以上もあるコンドームだった。
僕はへなへなとその場にしゃがみ込んだ。
それは、蒼くんからの贈り物だった。
まだ新品の箱に包まれたコンドームと一緒に手紙が入っていた。
文面を読んで、僕は泣きそうになった。
『康平へ。俺はお前が好きだ。誰よりも、琢也よりも篤史さんよりも、自分よりも一番お前が好きだ。でもお前が好きなのは、俺じゃない。だから、好きな奴と好きなだけこれを使ってくれ。俺の分は必要ない。蒼』
笑ってしまいたくなるくらい男らしい文面だった。そして、彼がせっせとコンビニやショップで購入しただろうその姿を想像して、もっと悲しくなった。
彼はどんな気持ちだったろうか。安くもないし、恥かしいだろうし。僕はとても真似できない。
僕は今までに見た事もないほどの避妊道具を見てがっくりと頭を垂れた。
いつから? 彼はいつから僕の事が好きだったんだろうか。
僕は膝を抱えた。いや、今はそんな事はどうでもいい。
僕は、力を振り絞って床に散らばったコンドームの箱をバッグに詰め込んだ。
そして、携帯電話を引っつかむと家を飛び出した。