相談
「そいつひどい奴なんだ…」
「……最低だよ。でも、すごく好きなんだ」
まっすぐに僕の目を見て言う。
まるで、僕に告白してくれている錯覚を覚えた。
でも、僕は首を振った。
「そんなひどい男、やめた方がいいよ」
「え?」
僕の言葉に蒼くんは目を瞠る。
「それ……どういう事?」
「蒼くんがかわいそうだ。僕だったら、そんな最低な男好きになったりしない。蒼くんみたいな可愛い子が好きなるような相手じゃないよ。もったいないよ」
「もったいないって…何だよ」
そう言って、彼は鼻をこすった。
「ねえ、そいつに嫌がらせしてやろうよ」
「えっ?」
蒼くんは弾かれたように顔を上げた。
「そいつの最低なところ挙げてみて」
蒼くんは、消えそうなほど小さい声で言った。
「え……? あ……そいつ、セ、セックスフレンドとかわけの分からない事をしているんだ」
僕は胸がつきんと痛んだ。
「許せないんだ。蒼くんは」
「俺は……そういうの嫌いだ」
きゅっと唇を噛んで、いつもの可愛い顔で僕に言った。
「そっか…」
僕は大きく息を吐いた。
「だったら、そいつの嫌がる事考えよう」
僕がにこっとすると、蒼くんはひるんだ顔をした。でも、もう、涙は止まっていた。
「康平は?」
「え?」
「康平が絶対に許せない事って何?」
「僕?」
僕は飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
「ぼ、僕だったら……」
そうだなあ、と僕はいつものように適当に答えた。
「コンドームを送りつけられたら怒る」
「コ……」
可愛い蒼くんはその単語も言えず顔を真っ赤にさせた。
「使った事ない?」
「俺は……」
白い肌を上気させて彼は首を振った。僕は笑って蒼くんを見た。
「あれは男が買うものだからさ。責任持って相手のために使いたいと僕は思っているから。それを送りつけられたら、どういう意味だよって思う。これをどうしろって? みたいな。でも、あれを買うのは結構恥かしいよね」
「そうなのか…」
蒼くんは、もう自分が買うみたいな顔で青ざめた。
「なら、無理かな」
僕は笑って意地悪を言いながらも、自分の心がばらばらに砕けているような気がしていた。
蒼くんは何だかすっきりした顔をして、赤くなった頬をこするといつもの顔でほほ笑んだ。
「サンキュ。すっきりした」
「そう? 良かった」
僕はほほ笑み返した。
笑顔の裏では、今すぐこの場を飛び出して泣いてしまいたい気持ちだった。
「学校、行こう」
僕からそう言って立ち上がった時、彼の手が偶然、僕の手に触れた。その手はひんやりしていた。
「寒いの?」
蒼くんは首を振った。
「泣いたからだと思う」
「いつでも相談に乗るから言って」
「分かった」
もう、僕は蒼くんの顔を正面から見ることはできなかった。