言ってやったぞ!
「ミズキはなんでオレなんかとこうしているんだ? ミズキだったら良い男がいくらでも寄って来るだろう?」
ビールの酔いが手伝ったのか、オレはずっと気になっていた事を聞いていた。以前にも聞いた事が有った様な気がするが、適当にはぐらかされた記憶しかない。
「どうしてでしょう? サガンには解らない?」
質問を質問で返された。その理由は今日アイカと先生によって解らされた。しかし、いくらアイカに言われたとはいえ、本当にミズキの気持ちがオレに向いている確証なんてないじゃないか! それに、解っていてはいけない気もするし……。
「わからないなぁ、寄って来る男にろくなヤツが居ないとか、恋愛なんて面倒くさいと思っているとか?」
ミズキが少しだけ寂しそうな眼をした様に見えた。それはほんの一瞬で、すぐに笑顔に戻った。
「確かにろくな男は寄って来なかったかな。でも、アタシは恋愛がしたくないなんて言うほど、悲惨な人生を歩んでは居ないよ。いつか素敵な人に告白されて、幸せな結婚をしたいなんて思ったりしているんだからね」
「ふーん、ミズキは未だに夢見る少女ってわけだ」
「そうだね。いつまで夢見る少女でいるんだろうね? いいかげん現実を見ろって感じ?」
ミズキは天井を見上げていた。素敵な人ってだれ? アイカと先生の話だと、オレもその候補の一人なのだろうか? それとも素敵な人=オレ? そんな思考がオレの脳細胞を駆け巡る。そして、ビールの酔いも手伝っていたのだろうが、オレの心に今まで見た事も無い勇気が大きく膨らんでいた。
「素敵な人かぁ……。それって……オレってことは無いのかなぁ」
ミズキの微笑みが驚きへと変わった。その変化を目の当たりにしてオレの勇気は急速にしぼみ始めた。
「あっ、いや、あの、その、えっと……」
何か言葉を発しなくてはと焦ったが、言葉が出て来ない。ふたりの間に沈黙の時間が流れた。その時間はほんの数秒であったのかも知れないが、オレにとっては数十分もの長さに感じられた。
「あのう……」
オレの弱々しい声が沈黙の扉を少しだけ押した時だった。ミズキの目から大粒の涙が流れ落ちた。
「ど、どうしたの? オレ、変な事言った? きっと言ったよね。ゴ、ゴメン」
「ううん、アタシこそごめん。泣いたりして……。サガンはまだなんにも言って無いのにね。急に涙が出てきちゃった」
ど、ど、どういうことだ? オレが何か言う事をミズキが期待している? オレは何を言ったら良いんだ! ミズキは何を期待しているんだ! オレは何を言ったら良いんだ! ミズキは何を期待して……、これでは堂々巡りだ! 何か言わなくちゃ!
「ミ、ミズキ、オ、オレ、ミズキの事が……す、す、好きだ! すっと前から好きだった!」
言った! 言ってやったぞ! そうだ、オレはミズキが好きなんだ! ずっとずっと前からミズキの事が好きだったんだ。高校二年の時からずっと、好きだった。あの不幸な事故が起こった日の放課後、ミズキがオレの前に立ち、ニッコリと笑いながら『罰として、駅前でアイスクリームおごってよ』と言った瞬間から……。そうだ、あの瞬間からオレはずっとミズキが好きだったんだ。
「サ、サガン……、あ、あのう……、えっと、アタシも……アタシもサガンが好き。ずっと前から……好きだった……」
ミズキはそう言ってうつむいた。
ふたりの周りには、またしても沈黙が訪れていた。しかし、今度の沈黙はさっきのモノとは明らかに違っていた。さっきの沈黙は耐えがたい苦痛を伴っていた。でも、今は違う。この沈黙ならば、何時間続こうとオレの勇気がしぼむ事は無い。
オレはミズキに近付き、ミズキの肩に両手をかけた。小動物を抱く時の様に、そっと。
ミズキが顔を上げた。潤んだ瞳が美しい。オレはミズキの瞳を見つめていた。ミズキは瞳を閉る。オレの唇にミズキのやわらかい唇が触れた。オレの背中にまわされたミズキの両手に少しだけ力が入る。オレはミズキの身体を強く抱きしめた。
優しく暖かな時間が流れた。オレはミズキを、ずっと、ずっと抱きしめていた。初めて出会ったあの日から……、恋に落ちたあの瞬間からの時間を取り戻す様に……。
今回で最終話となりました。
長い間お付き合いいただきありがとうございました。
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