六話
すいませんまだチートしませんでした。もう少しで戦闘させたいです。
白衣の女性に無理やり連れられた先にあったものは、さっきの赤い屋根の家だった。
まあ、なんとなくわかっていた事だ。だけどなぜ、この人は俺たちを追いかけてきたのだろうか。
俺の知り合いでもないし、白衣を着ている時点でまず、古代西洋の人間であるニーナと関わりがあるとは思えない。
見たところ俺たちに危害を加えるつもりはなさそうだから、殺されはしないだろうけど......。
家の中に入ると、椅子に座らされる。ニーナは机を挟んで向かい側に座った。
白衣の女性はお茶を入れてくるだとか何だとか言って、キッチンの方へと消えた。
暇潰し程度にぐるりとあたりを見回すが、熊や猫などのぬいぐるみがいろいろなところに落ちている。
案外普通女の子の家というような感じだった。
白衣の女性が木製のトレイを抱えて、キッチンから出てくる。
先ほどとは変わって、白衣の上に茶色の革ジャンを着ている。確かにちょっと肌寒いけど......何か変だ。
椅子に腰をおろして早々に、彼女は声をあらげた。
「なんでこの家にこなかったのよ! 普通来るでしょうが!」
そして、鋭い目つきで睨みつけてくる。
「いや、あんだけ怪しかったら近寄らない方が良いって思うんじゃないでしょうか」
「そんな事ないわ! 今まで来た人はみんなちゃんと立ち寄ったわよ!」
「みんな? 前も誰か来たんですか?」
突然の質問に不意をつかれたのか、白衣の女性が表情を落ち着かせた。
「たまにね。まあ、あそこに現れる人は少ないけど__。自己紹介がまだだったわね。私は浅田苗。ここの家主よ。そっちは?」
「本旗大吾です。そこの子は、ニーナ・アルベット。本物の姫様らしいです」
「そう。よろしくね」
驚かせるつもりでニーナの事を言ったのに、あまり期待した反応は得られなかった。
そんなニーナは友達の家に来たかのようにくつろいでいる。
ちびちびと、出された紅茶に口をつけては、熱いのかはっと目を見開いていた。
「君のパートナーさん、可愛いわね。君と全然釣り合ってないわ」
「..................」
失礼だな、この人。......否定はしないけど。
しかしそんな事を言う浅田さんも、かなりの美人だった。
いわゆる年上のお姉さんという風貌で、嗜虐的な笑みを浮かべたらかなり絵になるような鋭い目に、きりっとした眉毛。前髪を、菊のついたピンで止めてでこを出しており、背骨の真ん中あたりまで伸びた黒髪は触れるだけで溶けてしまいそうなほど儚く見える。
改めて意識してしまうと、思わずみとれてしまう。
「どうしたのですか、ダイゴ」
「あ、いや何でもないよ」
「じゃあ__そろそろ説明しなくちゃいけないから、静かにしてね」
浅田さんは腕を組み、これから話す事の重要性をさりげなく伝えてくる。
そこから切り出された言葉は、俺には少し予想できていた事だった。
「この世界はひとつのゲームのようなもので成り立っている。あなたたちはそのゲームに参加する義務を与えられたのよ」
「......そうなんですか」
「意外と驚かないのね__。まあ、そんな事はどうでも良いわ。ちなみに私はゲームの説明者という役割だから、私の言った事はちゃんと覚えておく事。わかった?」
「わかりました」
口ではそう言ったが、俺はこういうものは話半分に聞いておくのがいちばん良い事を知っている。
まだ信用しきれたわけじゃない。
俺が会話をしているのは、ニーナのような純粋で可愛らしい人間じゃないのだ。
裏がある可能性なんて、無いようには全く思えない。
「まず、このゲームをクリアする条件は二つあるの。ひとつ目は、素直にラスボスまで倒しきる事」
「これって戦闘モノなんですか?」
「いちおうは、そう。だけど動き回ったりする事が苦手な人もいるじゃない。実際この世界に来る男性は戦闘に向いていないオタクやニートが多いの。どうやら君は、ニートなのに運動ができるタイプみたいね」
「そんな事わかるんですか?」
「数年間やって来たからね、わかるわよ。......話がそれたわ。もうひとつ、クリア条件がある。こっちは誰も成功しそうにないんだけど、聞きたい?」
「聞かせて下さい」
浅田さんは、少しの間をおいて、言った。
「『シンデレラ』を見つける事__ね」