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二話

 ニートから普通の高校生に戻る決心ならば、ずっと前からついていた。

 行動に移さなかったのは機会がなかっただけだ。アルバイトも嫌いじゃない。

 それに、学校に行っても友達がいなくたって、別に良い。

 数年間のニート生活で得たぼっち耐性があるからだ。

 だけど。

 俺は全く予想していなかった状況に(おちい)るのがとにかく苦手だ。

 たとえば過去にあった、両親が知らぬ間に旅行に出掛けていて、偶然その時にいとこの父親が俺の家に立ち寄ってきた日だ。重ねてその時いとこの父親は酔っぱらっていた。

 俺は友好的な父親の息子とは思えないくらいに、いとこの父親に狼狽した。

 間違えて親父と呼んでしまった事が黒歴史。

 その日はいとこの父親に息子と呼ばれたりしてかなりめんどくさかった。

 ......話がずれたが、とにかく俺は想定外の事が何よりも苦手なのだ。

 したい事が思いついたら、そこから次に考えるのは必ず『手順』だ。

 完璧に成功すると確信を得られるまで俺は手を出さないようにしている。

 それは何においてもだ。

 誰かの命が懸かっているような事に出会った経験はないけど__きっとその時でも俺は完璧なプランを練ってから行動するだろう。確信がなければおそらく、何があっても動かないと思う。


「誰か......ぁ」


 暗闇に向けて__向けるどころかどこを見ても暗闇なのだが、声を出す。

 しかしもちろん返事はない。

 俺以外の人間がいれば、もう(すで)にどこかから声がしているだろう。

 こんな場所で喋らずにいられる人間なんていない。絶対に誰かを見つけ出そうと何かをする。

 (げん)に俺がそうなのだから説得力はあるはずだ。......あるかな。

 まあ、別に誰かを説得させるわけではないのでどうでも良いのだが。

 とりあえず立ち上がろうとする。けど、ちょっと待てよ自分にブレーキをかけた。

 こんな何もかもが不確定な状況でのろのろ腰を上げても大丈夫なのだろうか?

 大丈夫ではないだろう、まず間違いなく。

 ひとつのミスが命取りになりかねないような雰囲気があった。

 だから、とりあえず今座っている場所から動かないでおくことにする。

 立ち上がるのは解決案が見つかってからが良いだろう。

 時間があるという事が不幸中の幸いだった。

 ......それにしても俺はなぜこれほどまでに平常心なのだろう。

 考えられるのは、ラノベの読みすぎか、どこか心の中でこういう展開を期待していたからか。

 とにかくバカみたいに怖がる事がなくて良かった。

 そんな恥ずかしいマネだけは絶対にしたくなかった。


「おーい」

「はーい」

「は?」


 なんとなく出した言葉に、山びこのような返答があって首をかしげる。誰かいるのか?

 さっきの声で反応しなかったわけだが、今回は反応した。女の子の声だ。

 おそらく、俺が二回目に声を出す少し前にここに来たのだろう。

 出来る限り冷静な声色で、どこにいるかもわからない人間に話し掛けてみる事にする。

 何を聞けばよいものかと思案して、いちばん妥当そうなものを選び出して声にした。


「えぇと......ここがどこだか知らないか?」

「えっと、それはわたしもわからないのです。それよりわたしはふらふらするのです」

「ん? ふらふらって何が」

「わたしにもわからないのですよ......っ......おふ。あぶない」


 もしかすると何かをしているのだろうか?

 この暗闇からの脱出を試みようとしているのかもしれない。

 だけどそれなら......。こいつはバカだ。

 まわりが全く見えない状態で、そもそも可能かもわからない『脱出』に挑戦しようとする事は、何もない暗闇の中で焼きたてのフランクフルトを探す事に等しい。つまり、あるかもわからないものを安定していない状況で発見する事は、まず確率的に言って不可能なのだ。

 俺はおとなしく座っておく事にした。

 暗闇のどこかにいる少女には悪いけど......俺という人間はこうなのだから仕方がない。

 少女のとろんとろんに溶けたような声が、耳なりみたく色んな方向から聞こえる。

 あえ、だの、うえ、だの、聞いているだけで眠たくなりそうだ。


「あたっ」

「....................................」


 黙っているだけで良いのだろうかという罪悪感(ざいあくかん)にみまわれる。

 いや、もちろん良いはずなのだ。知らない少女を助ける義理(ぎり)も男気も俺にはない。

 だけど彼女の口から発されている声は、およそ平和なものとはとうてい思えなかった。

 どう考えても、痛がっている。


「__はぁ......。大丈夫か?」

「もちろん、わたしは大丈夫なのですよ! ......だけど今回のはちょっと痛かったかもです」


 声を出すくらいなら不明瞭(ふめいりょう)な暗闇でも大丈夫だと決めつける。

 さっきから少女が声を発しているのに、何も危険な事が起こらないからそう判断した。

 (しゃべ)るくらいでお(とが)めがあったらさすがに困るのだが。


「本当に大丈夫なのか?」

「もちろんなのです。これくらい日常茶飯事なのですから」


 声色からして確かに無理はしていなさそうだった。

 あまりにする事がないので、少女との会話に専念しようと思う。

 そうしたら何か__変わるとは思わないけど、時間潰しにはなるだろう。

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