表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/494

空の宇珠 海の渦 外伝 -風の音色- その九







長い階段の先に神殿が見えた。

 


扉は開かれている。

 


そこに広間が創られていた。

 


窓はなく薄暗い。

 


燈台の明かりが灯っている。

 


その薄暗い空間の奥に、祭壇が据えられている。

 


その先に神が祀られている部屋が控えている。

 


そこは、普段は入ることが許されない神の間である。

 


祭壇を奥にして、左側に宮司と禰宜、右側に神楽を奉納する者達が並ぶ。

 


真魚と華音はその一番後ろに並んだ。

 


華音は布で顔を隠したままだ。

 


先ず、宮司が穢れを払う。

 


そして、祝詞を上げる。

 


華音は笑いそうになるのを堪えていた。

 


「かしこみ、かしこみ、も~~~す~~~」



この時はもうだめだと思った。

 


その時、真魚が立ち上がった。

 


そのおかげで、華音は耐えることが出来た。

 


真魚は祭壇に向い一礼し、何かを置いた。

 


それは一握りほどある水晶玉であった。

 


木の台座の上に置かれている。

 


そのまま、後ろに下がった。

 


祭壇の向かい側に真魚と華音が座った。

 


その少し前に四人の巫女が座る。

 


巫女は舞をするための鈴を持っていた。

 



挿絵(By みてみん)




数人の禰宜がざわつく。

 


宮司は何が起こっても動じない。



覚悟は出来ているようだ。


 

華音が緊張する。

 


真魚は五鈷鈴を出した。

 


そして、目を瞑った。

 


手刀印を組むと光の輪を発動させた。

 


ざわつく波動に、敵意を感じる。

 


真魚は気にすることなく五鈷鈴を鳴らした。

 



ちりぃ~~~~ん

 


ちりぃ~~~~ん

 


音の波が広がっていく。

 


その波動が清浄な場を形成していく。

 


音に呼応するように、真魚の光が発動する。

 



華音は手を組んだ。

 


そして、祈りを捧げるように、その手を口に当てた。

 



それが合図だった。

 


真魚の光の輪が回り始めた。

 


溢れる生命の力。

 


華音が息を吸う。

 


華音が心を繋ぐ。

 


光が華音を包む。

 


組んだ手の中に神の笛が現れた。



真魚以外、他の者には見えない。


 


真魚と華音の光が同調する。

 


華音が神の笛を奏でる。

 


その手から音が溢れ出す。

 


「おお…」

 


声が上がる。

 


誰も聞いた事がない旋律。

 


それだけではない。

 


美しく切ない。

 


伸びやかで雄大。

 


それは聞く者にとって様々に変化する。

 


華音が奏でる旋律が、人の心を震わせる。

 


そして、人の心を変えていく。

 


真魚の身体が輝き始める。

 

 


真魚の生命(エネルギー)がその空間を埋める。

 


気がつくと巫女が踊っている。

 


華音が奏でる旋律に合わせ舞っている。

 


一人一人が自分を表現している。

 


だが、不自然には感じない。

 


むしろそれは美しい。

 


決められた動きは一つとしてない。

 


戯れる蝶のように舞っている。



それは完全な自己表現であった。

 


華音が奏でる旋律と巫女の舞。

 


そして、真魚の生命が、見事な調和を見せている。

 


雪の様に舞い降りる光の粒。

 


生命の光がやさしく包み込んでいる。



そして、その光が舞い上がる。

 


螺旋を描きながら天に舞い上がる。

 

 


しゃん、しゃん!

 


しゃん、しゃん!

 


巫女が鳴らす鈴の音が聞こえる。

 


水晶の上に光が集まる。

 


金色の光の輪が天井に浮いている。

 


それは天界とこの世を結ぶ扉である。

 


そして、光の輪が割れる。

 


扉が開く。

 


天井が光で満たされる。

 


その瞬間、光で何も見えなくなる。

 



光によって浄化され、場と空間が一体化する。

 


皆は何が起こったのかは理解出来ない。

 



真魚と華音だけが動じない。

 



光の幕が下りてくる。

 


水晶が輝く。



まばゆい光を放っている。

 



華音の手の中の神の笛が輝きを増す。

 


華音の音が止む。

 



ちりぃ~~~~ん

 



真魚が五鈷鈴を鳴らして目を開けた。

 



そこには圧倒的な光が存在した。

 



それは生命(エネルギー)であり力であった。

 


完全な存在であった。

 


もう疑う者は誰もいない。

 



『気に入ったぞ』

 


声ではない。

 


光が全てを伝えている。




『その笛を、それほど使いこなせる者はいまい』 



「ありがとうございます」

 


華音はそれだけ言うのが精一杯であった。

 

 

神であった。

 



『姫も一緒か…』


 


『その笛の音を聞きたくてな…』



『相変わらず素直ではないの…』

 


その神が笑っている。

 


『この男が例の男か…』

 


『なるほど、人にしては大きすぎるな…』

 


神はそう言った。

 


「大国主の神よ」

 


真魚はその神を大国主と言った。

 


『なんだ』

 


「華音には父がいます」

 


『ははは…』

 


『面白い男だ…』

 


『私の笛を持つものよ、もう一つ奏でてもらえぬか』



「はい」

 


華音は手を組んだ。

 



神の笛が輝いている。

 


祈りを捧げるように神に向かって吹いた。

 


切ない旋律であった。

 


美しい旋律であった。

 


皆が泣いている。

 


神の心に触れたからだ。

 


その音は清流のように穢れなく流れ、消えていく。

 


華音は既に気づいている。

 


すすり泣く声の中に違う波動が存在する。

 


華音の閉じた瞳から一筋の涙が流れていた。

 


『見事だ』

 


『これからも楽しませてくれ』 

 


神の波動は全てを包み込む。

 


「はい…」

 


華音は返事をした。

 



挿絵(By みてみん)





『この約定はここにいる皆が覚えておる』



大国主の神はそう言った。

 


『その男、なかなか面白い』

 


『楽しみだ』

 


水晶の中に、その生命(エネルギー)の波動を残して行った。




続く…





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ