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空の宇珠 海の渦 外伝 -風の音色- その七






「たのしかった~」

 


都でした様々な体験。

 


初めて大勢の人前で笛を吹いた。

 


直ぐに人は集まってきた。

 


その音色に人は魅了された。

 


泣いてる者もいた。

 


華音の姿に最初は戸惑っていた。

 


特に子供は正直であった。

 


だが、その素直さが華音の閉ざした心を開いていった。

 



挿絵(By みてみん)




「おねえちゃん、すごい!」

 


誰もが初めて聞いたという。

 



自分にとって日常の一部であったものが、



こんなに喜ばれるとは想像もしていなかった。

 


昔、音楽は神に捧げるものであった。

 


日常に音楽が存在する事など、希であったに違いない。




「そろそろ帰ろう」

 


真魚のその一声で帰路についた。



都で過ごした時間は夢の様であった。

 


幸い真魚が貸してくれた布のおかげで身体は無事であった。

 



「肉がないのは残念じゃなぁ…」

 


嵐が文句を言いながら食べている。

 


「猟師でもない限りそうそう手には入らん…」



真魚は呆れている。

 


「鳥ならあるけど…」

 


見かねた華音が気を利かせた。



「鳥!!!あるのか!」

 


嵐の反応は早かった。

 


「取ってくる…」



華音は竃の側にある箱の中から取り出した。

 


「はい、これ!」

 


「なんだ、乾いているのか?」

 


嵐は、華音が渡した肉の臭いを嗅いでいる。

 


「煙臭いぞ」

 


そう言いながらも、あっという間に食べてしまった。

 


「でも、それなりに美味い!」

 


その言葉は合格点ということだ。

 


「こうしておくと保存が効くの」

 


華音は笑っている。

 


「それは母の知恵か?」

 


真魚が華音に聞いた。 

 


「そうよ」

 


華音の答えに真魚は思うところがあった。

 


貴族の女は料理などしない。

 


こんな山奥で生きては行けない。

 


山で鳥を捕り、それを捌き、保存するだけの知恵がある。

 


そう言う所で生まれ育ったということだ。




「あっ!」

 

華音が気づいた。

 


同時に二人が気づく。

 


「鬼さんが帰って来た…」

 


「やれやれ…」

 


真魚はその感度に驚いている。

 



「おい!ばれてるぞ!」

 


嵐が聞こえるように叫ぶ。

 


「なんだ、つまらんのう…」

 


そう言いながら、前鬼と後鬼が家に入ってきた。

 


「おっ、お嬢ちゃんずいぶん変わったな!」

 


前鬼が華音を見るなり驚いた。

 


「ほんに、見違えるようじゃ!」

 


後鬼も驚いている。 

 


華音の波動の変化を、二人はそう捉えた。

 


だが、それは真魚も嵐も同じである。

 


「どうだった?」

 


真魚が話を切り出す。

 


「真魚殿の言うとおりですな…」

 


前鬼は真魚に感心している。

 


「では、明日にでも行ってみるか!」

 


嵐に気合いが入る。

 


「そのことですが、ちと時間をくだされ…」

 


後鬼が申し訳なさそうに言う。

 


「どういうことだ」

 


そう言いながらも真魚は分かっている。

 


「舞台が大きいと、それなりの苦労もあるようで…」

 


前鬼の言葉は大きな意味を持つ。

 


「それほどか…」

 


真魚が笑っている。

 


「はい、それほどで…」

 


前鬼が笑っている。

 


「何の事じゃ!」

 


嵐には分からない。

 


「お主は知らなくてもよいことじゃ!」

 


後鬼が嵐をからかう。

 


華音が笑っている。

 


「嵐、まだあるわよ!」

 


華音がそう言って鳥の肉を持って来た。

 


「それを早く言え!」

 


嵐の切り替えは速かった。

 


「何だそれは!」

 


後鬼が興味津々で見ている。

 


「よかったら、後鬼さんもどうぞ」

 


華音が後鬼にも持って来た。

 


「よいのか?」

 


大切な食料であることは、後鬼も分かっている。

 



「ええ、母の分はもう要らないので、皆さんで食べてください」



華音は明るかった。 

 



挿絵(By みてみん)



「何か良きことがあったのじゃな!」

 


後鬼の微笑みは、優しさに溢れている。

 


「はい!」

 


華音の波動が語っている。

 


「こんなに楽しい時間は、生まれて初めて…」 



華音は感じていた。

 


自分が変わって行く。

 


今までとは違う。

 


ときめいている。

 


わくわくする。

 


心が震えている。

 


これが本当の自分。

 


今まで抑えていた心。

 


それが解き放たれようとしている。

 


そして、変われる自分をうれしく思う。

 


自分が望む自分になれる。

 


「お母さん、ありがとう…」



その事に華音は感謝していた。




続く…









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