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空の宇珠 海の渦 第四話 その六




「貴方を救う」

 

 

「どういうことなのだ…」

 

 

真魚は戸惑っていた。

 


 

「弟のことです…」

 

 

女は真魚から目をそらした。

 


 

「弟と言っても双子なんです…」

 

 


女の言葉に、真魚が導かれた。



 

「双子の弟…百済…」

 

 

「異国の男…」

 

 

『まさか!』

 

 

繋がった。

 


 

「弟を止めて欲しいのです」

 

 

女は本気だった。

 


 

「どうして俺に…」

 

 

真魚はそこが腑に落ちない。

 


 

「霊力です」

 

 

「私にもわかるのです」

 

 

女は「わたしにも」と言った。

 

 

『相当な霊力の持ち主…』

 

 

真魚の考えは当たっていた。

 

 

 

「初めて出会ったときに、貴方しかいないと感じました」

 

 

女は瞳を潤ませた。

 

 


「止めるとはどういうことなんです」

 

 

真魚はその涙を受け入れようとしていた。

 

 

 

「倭の国を我が物に…」

 

 

女がとんでもないことを言った。

 

 

「この国を…どうするつもりだ」

 

 

真魚が問い詰める。

 

 

「それは私にもわかりません」

 

 

「ただ、恐ろしいのです」

 

 

「弟の考えていることが分からないのです」

 

 

女は声を詰まらせた。

 

 

「しかし、優しい一面もある」

 

 

真魚は、その男の人となりを知りたかった。

 

 

「私にはすごく優しいのです」

 

 

「父は自分を守る為に母を捨てました」


 

「その母を早くになくしてから、二人きりで…」

 

 

女はそこまで言って目を伏せた。

 

  

 

「父は百済の貴族か?」


  

真魚が女に聞いた。



  

「はい…」

  

女の目から涙が溢れた。

 

   

だが、真魚は腑に落ちなかった。

 


 

「弟に逢うことは出来るのか?」

 

 

真魚は女に問うてみた。

 


 

「いいえ…」



女が首を横に振った。



「あれから行方知れずなのです…」


その理由を真魚に告げた。


 

「ひょっとしたら…それなりの覚悟があったからこそ…」

 

 

女の声が途切れた。

 


「最後のつもりか…」

 

 

真魚がつぶやいた。

 


 

「ちょうどよかった」

 

 

「俺もちょっとその男に用がある…」

 

 

真魚のその答えに女は驚いた。

 


 

「知っているのですか?」

 

 

「俺の連れがちょっと世話になった」

 

 

「一言礼を言いたい」

 


真魚はそういう表現をした。

 

 

 

「では…」

 

 

女は事情を知らないはずだ。

 


 

「弟の名は?」

 

 

 

光月(こうげつ)と言います」

 

 

真魚はその名を心に刻んだ。


 

「この件は引き受けよう」

 

 


真魚がきっぱりと言った。

 



挿絵(By みてみん)





 

「ありがとうございます」

 

 

「貴方に会えて本当に良かった」

 

 

 女の瞳には二つの希望が輝いていた。










「あの男は光月というのか…」

 

 

前鬼が腕組みをしている。

 

 

壱与の家の祭祀小屋を、嵐が治るまで借りることになった。

 


 


「そう見て間違いはない」

 

 

真魚が言った。

 


 

「なぜ嵐が必要なのじゃ」

 

 

後鬼が皆に問いかける。

 


 

「おそらく力だ」

 

 

「嵐と青嵐がいれば、この国の一つや二つは手に入れられる…」

 

 

真魚はそう考えている。


 

「それも、そうだ」

 

 

その考えに前鬼は納得していた。

 


 

「青嵐が操れるのなら、嵐もと考えたのか…」

 

 

後鬼がつぶやく。

 


 

「それは無理だ」

 

 

寝そべっている嵐が言った。

 


 

「今は真魚と繋がっている」

 

 

「それを覆すとなると大変じゃ」

 

 

嵐がさらに付け加えた。

 


 

「それよりも青嵐じゃ」

 

 

「青嵐の呪縛は外からでは解けぬのか?」


 

後鬼が言った。

 


 

「鍵は奴が持っているからな」

 

 

「だが、嵐になら解けるかもしれん」

 

 

真魚が光を示す。

 

 

 

「俺に、あの呪縛が解けるのか…」

 

 

青嵐の悲しそうな目が、嵐の心を縛る。

 


 

「お主らはもともと一つであったのであろう」

 

 

前鬼が嵐に発破をかける。

 

 

突然。

 

 

「あっ、そーか!」

 

 

「そういうことか!」

 

 

いままで黙っていた壱与が叫んだ。

 


 

「私、なんか足りないと思っていたのよ」

 

 

壱与が何かを見つけた。

 


 

「足りない?」

 

 

後鬼には何のことかわからなかった。

 


 

「嵐の封印の事よ!」

 

 

壱与が言った。

 


 

「今はその話ではなかろう」

 

 

嵐が壱与をたしなめる。

 


 

「関係あるのよ!」

 

 

「鍵は一つとは限らないのよね」

 

 

真魚に向かって壱与が問う。

 

 

「さすが壱与だな」

 

 

真魚は笑って言った。

 


 

「それに、扉は外から開くとは限らないわ」 

 

 

「そうでしょう?」

 

 

壱与は真魚に言った。

 


 

「そうだな」

 

 

真魚はそう答えた。

 


 

「青嵐の心を開くことが出来るのは、嵐、あなただけよ!」

 

 

壱与が嵐に向かって言った。


 


「扉は中からでも開くのよ!」

 

 

嵐は壱与のその言葉に感激していた。

 

 

救うことが出来る。

 

 

そう思うだけで嬉しかった。

 



挿絵(By みてみん)





 

「だが、侮るな奴の呪縛は強力だ」

 

 

「逢っただけでは解けなかったのだ」

 

 

「青嵐も苦しんでいる」

 

 

真魚が嵐に向かって言った。

 


 

「どうすればいい」

 

 

嵐は素直に聞いた。

 


 

「俺に考えがある」

 

 

真魚が言った。

 


 

「それはなんだ!」

 

 

嵐が素直に聞く。

 

 

 

「今は言えん、効果が薄らぐのでな」

 

 

「任せておけ」

 

 

真魚が自信ありげに言う。

 

 

 

「お主がそこまで言うならな…」

 

 

嵐は納得していない。

 

 

だが、真魚のことは信頼していた。




続く…




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