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空の宇珠 海の渦 外伝 -風の音色- その五






「角が生えてる!」

 


華音はその姿を見て驚いた。

 


「一応、鬼だからのう」



嵐が皮肉っぽく言った。




挿絵(By みてみん)




「鬼って本当にいるんだ…」

 


華音は目を丸くして驚いている。

 


「俺の時はそんなに驚かなかったではないか?」

 


「どう見ても犬だもん」

 


華音は嵐を神だと思っていない。

 


「犬ではない神だ!」

 


嵐が念を押すが、華音には通用しない。



「前鬼、後鬼、ひとつ頼みがある」

 


「何なりと…」

 


「出雲に行ってくれ!見てきて欲しいものがある」

 


真魚は前鬼と後鬼に、何かの確認をさせようとしている。

 


「それで、何を見てくれば…」

 


「それは後で話す」

 


華音には話せない。

 


事実が華音を傷つける場合もある。

 


「この子は白髪のようですな…」

 


前鬼がその病に気づいた。

 


「昔、白髪(しらかみ)の皇子という皇子がいた」

 


「同じ病じゃな…」

 


後鬼も知っているらしい。

 



「だが、既に神に選ばれたようだ」

 


前鬼が笑って華音を見た。

 


「分かるの?」

 


「会ったばかりなのに…」

 


華音は不思議さを隠せない。

 



「お主らの羽音、華音にばれておったぞ!」

 


嵐が冷やかす。

 



「何と、ばれておったのか!」

 


後鬼が驚いている。

 



「それほどということだ…」

 


真魚が言った。

 



「なるほど…」

 


前鬼が腕を組んだ。

 


何かを考えている。

 



「媼さん、儂らは急がねばならんな…」

 


「そのようですな…」

 


前鬼と後鬼の考えは、同じであった。

    






前鬼と後鬼は真魚に話を聞くと、出雲に飛んだ。




「おじさんは、鬼と友達なんだ…」

 


華音は驚くと言うよりはおもしろがっている。

 



「私は友達いないから…」

 



「もういるではないか!」

 


嵐が華音に言った。

 


「もう友達だ!」

 


嵐の言葉に、華音が笑みを浮かべた。

 



「ありがとう!嵐!」



思わず嵐を抱きしめた。



「初めての友達よ!」



華音はうれしかった。

 



それは伝わる波動で分かる。

 



華音の心がほぐれていくのがわかる。

 


嵐もうれしかった。

 



「ところで華音…」

 


「笛は誰に習ったのだ?」

 


真魚が華音に話を切り出した。



「母よ、全部母から教わったの」

 


華音が答える。

 



「すると華音の母も笛が吹けたのだな」

 


「そうよ…」

 


「なるほど…それならば…」



その答えが真魚に道を拓く。



「俺らは行かないのか?」

 


嵐が真魚に聞く。

 


「今はな…」

 


「それは、いずれ行くということか?」

 


「そうなるな…」

 


真魚は朧気に、何かを掴んだようだ。

 


「全ては奴らが帰って来てからの話だ」

 


真魚はそう決めていた。









海からの風が吹き上げてくる。

 


頬を優しく撫でる。

 


夕日が沈もうとしていた。

 


華音の母の墓がある丘の上にいた。

 


「この島と出雲の間に、沈むのだな」

 


真魚が夕日を見てそう言った。

 


華音の母は、ここからからこれを見ていたのだ。

 


海に消えていく夕日が切なく感じる。

 


華音の笛が聞こえていた。

 


海に向かって笛を吹いている。

 


その旋律の中に母の想いが込められている。

 


言えなかった言葉。

 


伝えたかった想い。

 


それが何だったのかはわからない。

 


だが、華音の中でそれは生きている。

 


笛の音が風に乗って飛んでいく。

 


その波動が、次元の幕の上を伝わっていく。

 


「何だか切ないな…」

 


嵐は笛を吹く華音を見ている。

 



「悲しみが詰まっている…」

 


そうつぶやいた。



「だが、美しい…」

 


別の一面も併せ持つ。

 


「仕組みがそうしているのだ…」

 


真魚が華音を見て言う。

 


「どういうことだ?」

 

嵐にはその意味が分からなかった。

 


「哀しい生き方だ…」

 


真魚が言った。

 


「ありのままでよい、人はそういうものだ」 



「だが、世の中の仕組みがそれを許さない」



華音が一人にならざるを得なかった事実。



「お主には見えているのだな…」

 


嵐は真魚の言葉をそう受け取った。

 


「華音がここにいる理由が…」



そして、そう感じた。



「一握りの者達が生きる為に、多くの者が犠牲になっている」

 


「その仕組みを組み込んだ者がいる…」

 


「そして、力で従わせる…」

 


真魚はその男が誰か知っている。

 



「なにもないことは、本当は自由なのにな…」



嵐のなにげない言葉。



「それは青嵐の言葉か?」

 


真魚がからかう。

 


「あの男に言ってやれ…」

 


真魚が笑ってそう言った。




挿絵(By みてみん)




続く…







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