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空の宇珠 海の渦 外伝 -風の音色- その三






次の朝、太陽まだは昇っていない。

 


だが、空はほんのり色づいている。

 


まだ暗い森の山道を上っている。



勾配がきつくなってきた。

 


真魚たちは、華音の後を歩いている。

 


光に弱い華音は、紫外線の強い昼間には動けない。

 


それは小さい頃から何度も経験して得たものだ。

 


「いつもこんなに早いのか?」

 


子犬の嵐が華音に愚痴をいう。

 


正直もう少し眠っていたいのだ。

 


「陽に当たると火傷するの…」

 


「だから出歩くのは朝と夕方…」

 


華音は楽しそうである。

 


「では、食べ物はどうしているのだ?」

 


嵐が一番気になっていることだ。

 


「山が全てを与えてくれる…」

 


「鳥を罠で捕まえたり、野草を摘んだりしてるわ」

 


人が最低限生きていけるものを、自然は与えてくれる。

 


それ以上を望まなければ、苦しむ必要は無い。




「ここで音が変わるの…」

 


華音が言った。

 



「目が回る…」

 


嵐が言った。

 



「結界のようだ…」

 


真魚が気づく。

 



「こんな所に結界など…」



嵐が困っている。

 


「人が作ったものではない」

 


「昔この山にも、神がいたのであろう…」

 


嵐の疑問に真魚が答える。



しばらく行くと雰囲気が変わった。

 



「ほう…」

 


心地良い波動が周りを包んでいる。



「これは一体…」

 


嵐が驚いている。

 



手つかずの自然の中に一つの岩があった。

 


丸いお盆のよう石が一枚置かれている。

 


大人が一人寝られる程の大きさだ。

 


「ここよ!」

 


華音が言った。




挿絵(By みてみん)






「朝はいつも、ここで笛を吹くの!」

 


そう言って、華音はその石に腰をかけた。

 


「なるほど…」

 


真魚は感心していた。

 



磁場が整っている。

 


そして、その場を包み込む森の空気。

 


奥には滾々と湧き出る泉がある。



真魚と嵐には輝く生命(エネルギー)が見える。

 


ここにほぼ毎日来ていたとなれば、華音の波動も頷ける。

 


身体の弱い華音が、生きてこれた理由が説明できる。

 



華音が息を整えた。

 


手を組み目を閉じる。

 


華音に生命が集まっていく。

 


華音がそうしている訳ではない。

 


それ自体が楽しんでいるのである。

 


組んだ手を口元に持って来た。

 


笛をふいた。

 


新しい曲だ。

 


華音から一気に溢れ出す波動。

 


その音色と共に場を潤していく。

 


更に宇宙へと広がっていく。

 


「見事だ…」

 


嵐は声もでない。

 



その姿は祈りを捧げているかのようだ。

 


真魚が五鈷鈴を出した。

 


ちりぃ~~ん

 


それを鳴らす。

 


更に波動が増す。

 


笛の音と鈴の音が踊っている。

 


『見事だな…』

 


美しい声が真魚の心に届く。

 


『お主は強運の持ち主だな…』



その声は笑っている。




その周りに、様々な神が集まっている。

 



その旋律にその身を委ねている。

 


神が喜んでいる。

 


雪の様に光が舞い降りてくる。

 


全ては生命だ。

 


手を組んだ華音に集まる。

 


華音のその手に光が集まっていく。

 


その手が輝く。

 


華音は笛を吹いている。

 


そして、泣いていた。

 


神の慈悲の光に触れている。

 


それは、神の心だ。

 


華音の手の中に、光り輝くものが現れた。

 


笛であった。

 


華音はその笛を吹いていた。

 


涙が止まらない。

 


身体が熱い。

 


華音は笛を吹き終わると、その両手を抱きしめた。



神の笛は、華音の心とひとつになった。

 


華音は震えていた。



感動で身体の震えが治まらない。

 


神の心に触れて、泣きながら震えていた。

 


その両手を抱きしめたまま泣いていた。

 


「良かったな、華音…」

 


真魚が言った。

 



だが、その手の中には笛は存在しなかった。

 


だが、落胆はしない。

 


その意味は華音が理解していた。

 


「神様の前で吹いていた…」

 


華音は信じられない様子だ。

 



「それは神の笛だ…」

 


嵐が気づいている。

 


「神がくれたのだ…」

 


真魚が言った。

 


華音は両手を見つめている。

 


輝いている。

 


「私に神の笛が…」

 


華音は感動していた。



「その心に宿ったのだ…」



真魚が微笑んだ。

 




挿絵(By みてみん)




続く…




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