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空の宇珠 海の渦 外伝 -風の音色- その二





「こんなこともあるのだな…」

 


子犬が驚いている。

 


「おじさん、ありがとう…」

 


少女が言った。

 


その瞳に涙を浮かべていた。

 


「お母さんに会えた…」

 


少女の赤い瞳から、涙がこぼれた。



「きのう死んだの…」

 


少女がぽつりとつぶやいた。

 


よく見ると、石が積まれていた。



そこは母親の墓であった。



しかし、少女から悲しみの波動が消えている。

 


真魚のおかげで、少女は前を向けたようだ。

 


ありがとうの言葉の中に、それが見える。

 



挿絵(By みてみん)




別れは突然訪れる。

 


別れの言葉などはない。

 


だが、それを聞くことが出来たなら、



死は哀しいことではないのかも知れない。

 



人は前を向けるのかも知れない。





  


「その犬、喋るの?」

 


少女が突然問いかけた。

 


「やはり、聞こえていたのだな…」

 


真魚は感じ取っていた。

 


「分かっていたの?」

 


少女は不思議な表情で真魚を見ていた。

 


「一度笛が止んだ、その時だ…」

 


「耳が良くなければ、いい音色も鳴らぬ…」

 


真魚がそう言った。

 


「なるほど、そう言う事か!」

 


子犬が納得した。

 


「この子犬、名前何て言うの?」

 


少女が近寄ってくる。

 


喋る奇妙な犬を恐がりもせず頭を撫でる。

 


「私は華音(かのん)

 


膝をついて、子犬を抱きしめた。

 


「俺は、神だぞ!」

 


その耳元で、子犬が言った。

 


「えっ、神様なの!」

 


少女は驚き顔を離した。

 



「犬の神様なんているんだ!」

 


華音が、嵐を不思議そうに見ている。

 


「犬の神ではない、神だ!」

 


平行線が続いている。

 


(らん)と言う」

 


「こう見えても一応、神だ」



真魚が助け船を出す。

 


「一応とはなんじゃ!」

 


嵐は気分を損ねたようだ。




「こっちは真魚おじさんだ!覚えておけ!」



嵐はそう言ってご満悦であった。

 


「ところで、その髪の毛はどうしたのじゃ?」

 


子犬の嵐が華音に聞く。

 


「人と違うものね…」

 


華音が目を伏せる。

 


「すまぬ…気を悪くさせたな…」

 


嵐は華音に詫びた。

 



「母親もそうだったのか?」

 


真魚は華音に尋ねた。

 


「母は普通です」

 


真魚はその言葉でおおよそを把握した。

 


この島にも村がある。

 


しかし、何故このような山奥にいるのか…

 


この子を守る為に、母は山に籠もったのだ。

 



先天的な遺伝子欠陥で、先天性白皮症とも呼ばれている。

 


身体の色素が無いために紫外線などに弱く、



自然界においては生存率が極めて低くなる。

 


人の目から離す為に森の中を選んだ。

 


だが、それが光に弱い華音の命を、守ることになったのだ。

  

 

「父はどうしている?」

 


「父は異国の者です」 

 


「それ以上の事は知らない」

 


華音は、父親のことには触れられたくないようだ。

 



「私たちを捨てた男だ!」

 


華音はそうとまで言った。

 


手を握りしめている。

 


憎しみの波動が広がる。

 


そこに母と子の苦しみが表れる。

 



「一人と言うわけだな…」

 


真魚が華音に尋ねた。

 


華音は頷いた。

 



「良ければ、俺たちを一晩泊めてくれぬか?」

 


真魚が華音のご機嫌を伺う。

 


「いいけど、私が怖く無いの?」

 


「怖いだと…」

 


「神の目に、姿は関係ない!」

 


嵐がそう言った。

 


「そういうことだ…」

 


真魚が笑っている。

 


「いいよ!」

 

華音の波動が変化した。

 


三人は森の中に消えていった。








森の奥に華音の家があった。

 


非常に上手く隠されていた。

 


これなら誰にも見つかる事はない。

 


大きな杉の木に、隠れ周りからは完全に隠されている。

 


中は意外に広い。

 


「おじさんはこの島の人じゃないよね」

 


華音は真魚に興味を持ったらしい。

 


「喋る犬なんか連れているし」

 


「犬ではないと言っておるじゃろ!」

 


嵐はそう言っているが、見かけは子犬なのだから仕方が無い。



「何もないこの島に、何をしに来たの?」 



目的もなく人は動かない。

 


子供でもそれは分かる。

 


「捜し物をしている」

 


真魚はそう言った。

 


「捜し物?」

 


華音の目が見開いた。

 


「俺には、目的はないと言っていたぞ!」

 

嵐がすねた。

 


「どうせ興味などあるまい…」

 


真魚が答える。

 


「捜し物って何なの?」

 


華音はその事に興味津々である。

 


「龍の道だ」

 


「龍の道???」

 


華音には、何の事かさっぱり分からない。

 


「この大地の下には、龍の通り道がある」

 


「それを探している…」

 


真魚は説明を始めた。

 



「龍の通り道…」

 


華音は真剣に聞いている。

 


「大きな力で、大地すら揺らす事が出来る…」

 


「地震のこと?」

 


「そうだ、それも一つの表れだ」

 


「ふうん…」

 


華音はそこまで聞いて気づいた。

 



「大地にも唄があるんだ!」




「ほう…」

 


華音の言葉が、真魚を驚かせた。

 


「似たようなものだ…」

 


真魚が言った。

 


「そうか、大地の唄を探しているんだ!」

 


華音は納得したようだ。

 


「そうだ!明日いいところに連れていってあげる!」

 


華音の波動が高まる。

 


ぐ~~~~

 


嵐のお腹がなった。

 


「それより俺は腹が減ったぞ!」

 


「よし、明日はそこに行こう」

 

真魚が言った。

 


「その前に飯だ!」

 

嵐が言った。 




挿絵(By みてみん)




続く…




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