空の宇珠 海の渦 第五話 その五十六
「今までの奴らとは違うぞ!」
嵐は真魚に警告する。
「だが、このままでは…」
真魚は手刀印を組んだ。
光の輪を発動させる。
霊力が上がっていく。
真魚の棒が青く輝きだした。
青い光の粒が集まっていく。
「青龍!」
棒から光の柱が上がった。
光は上昇しながら変貌していく。
一度、雲まで上がった光が、今度は下降を始めた。
そして真魚の頭上で青い龍になった。
「行け!」
真魚が叫ぶと青龍は黒い龍巻に向かって行った。
「嵐、前に回り込む!」
真魚がそう言うと嵐は真魚を乗せて飛んだ。
あっという間に闇の前に回り込んだ。
「玄武!」
光の盾が真魚の前に現れる。
真魚は玄武の盾で守りを固めた。
黒い竜巻は、その姿を巨大な龍へと変えつつあった。
盾の向こうでは、青龍とその黒龍が牽制し合っている。
さすがの青龍も、力では押されている。
だが、青龍が牽制することで、動きは止まっていた。
「嵐、ひと囓りどうだ?」
真魚が嵐に聞いた。
「何が知りたい…」
「何でも…」
真魚がそう言った時には、嵐は飛んでいた。
光の矢が黒い龍を貫こうとする。
しかし、さすがの嵐も苦戦している。
黒い壁がそれを拒む。
だが、しばらくして嵐が帰って来た。
「味はどうだ…」
真魚が言った。
嵐の口がまだ動いている。
ゴクリ…とそれを飲み込んだ。
「なるほど…」
嵐が考えている。
「究極のまずさだ…」
「それは、今までで一番と言うことか…」
真魚は嵐の答えを再度求めた。
「そういうことになるな…」
嵐はぺろっと舌なめずりをした。
「手加減無用か…」
真魚の顔つきが変わった。
真魚の棒が光る。
今度は深紅に変わる。
赤い光の粒が集まる。
「朱雀!」
真魚が叫ぶと、赤い光が天に昇った。
それは雲を突き抜けた。
次に姿を見せたときには、炎を纏った鳥になっていた。
天から真っ直ぐに黒い龍に向かった。
口から炎を吐いた。
だが、黒い龍に変化はない。
青龍と朱雀で黒い龍を挟み込んだ。
これでもう動けない。
だが、それは青龍と朱雀も同じであった。
阿弖流為が母礼と闇から逃げていた。
まだ少し距離はある。
「 !? 」
阿弖流為は逃げながらその異変に気づいていた。
「阿弖流為、ここは引くのが懸命じゃな…」
那魏留が山賊たちと共に阿弖流為に近寄る。
「儂もあれほどの竜巻は初めてじゃ」
「那魏留、あれは竜巻ではない…」
那魏留の言葉に阿弖流為がそう言い返した。
那魏留が黒い竜巻を見た。
「お主にもわかるであろう…」
「ま、まさか…」
阿弖流為の問いかけに、那魏留はそれ以上の言葉が出なかった。
馬を止めて見た。
この感じ…
確かに感じた事がある。
阿弖流為の言葉が本当だとしたら…
恐ろしい事態が起こる。
全てが絶望に包まれる。
「動きが止まっている…」
阿弖流為が言った。
「どういうことだ!」
母礼は、闇そのものを初めて見た。
その言葉の意味がわからない。
「まさか…」
那魏留は光を見ている。
「俺はそう思っている…」
阿弖流為もその光を知っている。
「真魚か!」
母礼は不思議とそう感じた。
理由はない。
だが、間違ってはいない。
「真魚が戦っている!」
阿弖流為はそう確信していた。
続く…