表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/494

空の宇珠 海の渦 第五話 その五十三








「おのれ!」



田村麻呂は雨の中で打ち震えた。

 


取り残された兵は戻らない。

 


それほど戦局は、決定的であった。

 



自分を責めた。

 


自分を呪った。




「あの時、気づいておれば…」



カタ、カタ、カタ…


 

何か音が鳴った。



カタ、カタ、カタ…



それは腰にある刀であった。

 


黒漆大刀。

 


帝からもらった刀だ。

 


それが鳴っている。

 


怒りがこみ上げる。

 


憎しみが増幅する。

 


田村麻呂は我を忘れた。

 



刀に触れた。

 


力が溢れてくる。

 


柄を握った。

 



その力が田村麻呂を支配した。

 


力に酔った。

 


その高揚感に全てを忘れた。

 



心地よさに身を委ねた。

 



気がつくと刀を抜いていた。

 



挿絵(By みてみん)





突然辺りが暗くなった。

 



頭上に黒い玉が現れた。

 


それはどんどん大きくなっていく。

 


戦場の恐怖を吸い込んでいく。

 



絶望を食べていく。

 



大きくなりながらゆっくりと渦を巻いていく。




「田村麻呂様!」



その時初めて周りの武官たちが気づいた。



「田村麻呂様!お逃げください!」



正体はわからない。



だが危険であることは、本能が知っている。



田村麻呂を連れて行こうとするが、何かに縛り付けてあるかのように動かない。



何度か試みたが、全く動く気配がない。



「だめだ!!」



先に心が折れた。



あまりの恐怖に、自分たちだけ逃げた。








「田村麻呂か!」



突如現れた巨大な闇。

 


そのきっかけが田村麻呂であることに、疑う余地はなかった。

 


「嵐!」

 


嵐は真魚を乗せて飛んだ。

 



田村麻呂の前まで、一呼吸もかからない。



田村麻呂はすでに正気ではなかった。

 


刀に心を奪われていた。

 


「これが…力か…」

 


刀身を見つめる田村麻呂の焦点が合っていない。

 


そうしている間にも頭上の闇は大きくなっていく。

 



「真魚、どうする?」

 


嵐が聞いた。

 



「この男を殺す訳にはいかない…」



正気ではない、田村麻呂を倒すことはたやすい。

 


問題はこの刀だ。

 



既に田村麻呂と繋がっている。

 


引き寄せた闇と共に…



真魚が眉を顰めた。

 



『私に任せておけ…』

 

美しい声がした。

 


その瞬間、雷が落ちた。




田村麻呂が持つ刀が光った。

 


田村麻呂はそのまま崩れ落ちた。

 


「すまぬ…」

 


その美しい声の主に礼を言った。

 


真魚は急いで、その手から刀を外し鞘に収めた。

 


手刀印を組み呪を唱えた。

 


真魚の手にが霊力(エネルギー)が集まる。



それを刀に流し込んだ。

 


そのまま腰の瓢箪に入れた。

 



「嵐、田村麻呂を安全な場所まで運んでくれ」



「わかった」



嵐は田村麻呂を咥えて飛んだ。

 


そして、一瞬で真魚の元に戻ってきた。

 



頭上の闇の渦が大きくなった。

 


速さも増した。

 


戦場の全てを飲み込んでいく。

 


それは、生きる力を奪う黒い竜巻であった。





挿絵(By みてみん)





続く…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ