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空の宇珠 海の渦 第五話 その四十八








蝦夷の連合軍は、川の側で待機していた。

 


朝の光が、水の流れに弾かれ輝いている。

 


ここに来てから三日が過ぎようとしていた。

 


手筈(てはず)通り、紫音たちは今頃この地を離れているだろう。

 



村を守る必要はない。

 


思う存分戦える。

 



畏れるものは何もなかった。

 



今までとは違う戦いが始まろうとしていた。

 



だが、母礼は不安であった。

 



何か忘れている。

 


何か見落としている。

 


そんな感じがする。

 



だが、その不安に根拠があるわけではない。

 


言いようのない不安がつきまとう。




「阿弖流為、何かおかしくないか?」

 



「母礼もそう思うか、俺もだ…」

 



「倭ではないのだ…」

 



阿弖流為が、眉間に皺を寄せた。

 



「どういうことだ?」

 


「胸騒ぎと言う奴か…理由はないのだ」

 


阿弖流為も何かを感じ始めていた。

 



「まあ、分からぬものを畏れてもしょうがない」

 


母礼は楽天的に物事を考える。



「それもそうだな」



「畏れはよからぬものを引き寄せる…」



阿弖流為は、母礼の言葉をそう捉える。




その時である。

 



大地の向こうに何か見えた。

 


二騎の馬が駆けてきた。

 


それは蝦夷の馬であった。

 


遠くからでも見えるように背中に旗を立てていた。




挿絵(By みてみん)



「旗だ!」



「来たか!」



「戦の準備をしろ!」

 


阿弖流為が叫んだ。

 



「倭が来るぞ!」

 


母礼も叫んでいた。

 



緊張が伝わる。



伝令の馬がついた。

 



「あと半刻も経てば見えるはずだ」

 


伝令の男は言った。

 



「まだ少し時間がある」

 


慌てる必要はない。

 



見えたからと言って直ぐに戦が始まるわけではない。

 



「今のうちに何か食べておけ」

 


阿弖流為が皆に言った。

 


「馬にも水を!」



お互いが見えてから駆け引きが始まる。

 


始まりはその先だ。

 


阿弖流為の腹は決まっている。

 


迷いはない。

 


それは母礼も同じだ。



「とうとう来たか!」

 


母礼は南の地平を見ていた。

 






気配がざわついた。

 


阿弖流為たちが放った波動は、真魚にも届いた。

 


「そろそろか…」



真魚が言った。

 


「そのようだな」

 


それは嵐も感じていた




だが、真魚は動こうとしない。

 


「行かぬのか?」

 

嵐が聞く。

 



「まだ時間がある」

 


「何か食っておくか?」

 


真魚が嵐に言った。

 


「ま、真魚!本当か!!!」

 


嵐は喜んだ。 




真魚は瓢箪から食料を出した。

 



「こ、こんなに食ってもいいのか!」

 


山のように積まれた食べ物。

 


嵐の心が躍る。

 



「一仕事してもらわねばな…」

 


真魚には裏があるらしい。

 



「わかった!俺に何かせよというのだな!」

 


嵐は、目の前の食料に心を奪われている。

 




挿絵(By みてみん)




「何でもよいぞ!」



そう言うと嵐は、がむしゃらに食べた。

 


山のような食べ物がどんどん消えていく。

 



「ぷは~~~~~~っ」

 


嵐は食べ終わると深呼吸した。

 


息をするのも忘れたのか?

 



「お主という奴は…」

 


真魚は呆れていた。

 


「いつもこれぐらいは食べたいものだな!」



嵐が何食わぬ顔で言った。

 


「その分は働いてもらう」

 


真魚が返す。

 


「任せておけ!」

 


嵐は上機嫌だ。

 


「決まったな…」

 



「何が決まったのだ?」

 


真魚のその言葉に嵐が噛みついた。

 


「作戦だ!」



真魚はさらりと言う。

 


「お、お主まだ作戦を決めていなかったのか!」



嵐は呆れた。

 


「そうだ」

 


「だが、今決めた」

 


真魚はそうも言う。

 


「そんなにわか作りの作戦で、大丈夫なのか?」

 


嵐は呆れていた。

 


「状況は常に変わるものだ」

 


真魚が言った。

 


「それはまた変わると言うことか?」

 


「お主は、歩き出す時に右足か左足か決めているのか?」

 


真魚が不満顔の嵐に聞く。

 


「そんなものは適当だ!」

 


「同じではないか?」

 


真魚はそう言って楽しんでいる。

 


嵐は頭が痛くなってきた。

 



「ちょっと寝る…」



嵐はふてくされて寝てしまった。

 



その時は近づいている。

 



『わかっておろうな』

 


美しい声が真魚に届く。

 


「わかっている」

 


『お主は…どこまでやれば気が済むのだ…』

 


その声が呆れている。

 



「俺にもわからぬことがある」

 


「だが、俺の未来は俺が決める…」



 

蝦夷の大地は、異様な波動に包まれていた。




続く…





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