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空の宇珠 海の渦 第五話 その三十五







「媼さんや、これの扱いにも大分慣れてきたな!」



「誰が作っていると思っておるのじゃ!」

 


「あの時は全滅だったではないか?」

 


「あの時はあの時じゃ!」

 


とある蝦夷の村。

 


その近くの一番高い木の上に二人はいた。

 


その木は村からは風上に立っている。

 


香の香りが風下の村に広がっていく。

 


星が輝く夜空に、虫の声が消えていった。




全てが眠りに就こうとしていた。




挿絵(By みてみん)




「ぼちぼちかの?」

 


「そうじゃな!」

 


そう言うと、二人はその木の上から飛び降りた。

 


途中の枝を巧みに利用して地面に立った。

 



「しかし、この匂い…」



「真魚殿はよく耐えたものじゃな…」

 


「それは作ったうちが一番驚いておる!」

 


鼻に詰めた眠りを妨げる薬。



その臭いに、調合した後鬼が驚いていた。




前鬼と後鬼はその匂いに我慢しながら、ある家の前に立った。

 



そして、肩を組み、前鬼の右手と後鬼の左手で印を組む。

 



呪を唱えると二人の身体が揺らぎ始めた。

 



その揺らぎが膨らんで行く。

 


終に身体が見えなくなった。

 



次に見えたときには一つの身体になっていた。

 



「このぐらいにしておかんとな…」

 


いつもより身体が小さめだ。

 


天狗であった。

 


その天狗が、家の中へと入っていった。

 


中には大人から子供まで八人いた。

 


全員眠っている。

 


眠りの香の効果か、動く者さえいない。

 



その中で一番歳を取った男。

 



「あれじゃな…」

 


その男の額に指を当てはじいた。

 


ぱちん!

 


その男が目を覚ました。

 


「ああっ!」

 


男が声を上げた。

 



しかし、眠りの香がまだ効いている。




半分は夢の中だ。




他に目を覚ます者はいない。

 



「だ、だれだ!」

 


男はそういうのが精一杯であった。

 


「お主、儂を知らぬのか!」

 


天狗は少し声の調子を上げてそう言った。

 



「し、知らぬ!見たことない!」

 



「儂は神じゃ!この地を治めている神じゃ!」

 


天狗はそう言った。

 



「か、神様!」

 


男はさらに驚いた。

 



「お主ら!儂に断りもせず、倭にこの地を渡すのか!」

 


その声が男の身体に響く。

 



「け、決してそのような…」

 


更におびえた。

 


心を見抜かれている。

 


そう思ったのである。

 



「儂の力を信用していないのか?」

 



「そのような事はございません!」

 


男は額を地面にすりつけた。

 



「この儂がよそ者にこの地を渡すわけがなかろう?」

 



「もっともでございます!」

 


男は地面に額をこすりつけたまま、顔を上げることが出来ない。




挿絵(By みてみん)




「ならば戦うのか?倭と?」

 



「はい!神がそうせよと申すなら…」

 



「違えればどうなるか分かっておるな!」 




天狗は威圧的に声を上げる。

 


「はい!」

 


「ではそうするが良い」

 


「仰せの通りにいたします!」

 


男が恐る恐る顔を上げたときには、誰もいなかった。

 


男は、額からしたたる汗を手で拭った。

 



続く…




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