空の宇珠 海の渦 第九話 魂の鼓動 その四十三
珍しい組み合わせであった。
前鬼と後鬼、その後ろに紅牙が歩いている。
「紅牙、お主も人が悪いのう…」
後鬼が紅牙を責めている。
「お主らが動いているのだ、俺が出しゃばることもなかろう…」
紅牙が言い訳をしている。
「それに、なによりも老師様に報告するのが先だ…」
「結果的には俺一人で動くより、多くの事がわかったではないか…」
紅牙がそう言って笑っている。
「お主は本当に策士じゃのう…」
後鬼がそう言って笑みを浮かべる。
「隅に置けぬ奴が、もう一人いるではないか…」
「奴の事だ、もう大方のことは掴んだに違いない…」
紅牙が晴れた空を見ている。
「紅牙は四鬼一族の長を知っておるのか…」
前鬼が紅牙に聞く。
「知っていると言えば、知っている…」
「知らぬと言えば、知らぬ…」
紅牙が曖昧な答え方をした。
「お主は、うちらをからかっておるのか…」
後鬼が振り返って紅牙を見る。
「からかってはおらぬ…」
「俺も本当に知らぬ男だ…」
紅牙は嘘をついてはいない。
後鬼にはそれがわかる。
「護摩を焚いていた男がそうだとすると…」
前鬼が口を挟んだ。
「少し妙な話かも知れぬ…」
前鬼にはそれが引っ掛かっていた。
「爺さん、それはどういうことだ…」
後鬼が前鬼に問う。
「媼さんは奴を幾つと見た?」
前鬼が後鬼に問う。
「顔は見ておらぬが…」
「若い男のような気がしたのう…」
後鬼が答える。
「それが、おかしいとは思わぬか?」
「一族の長は普通はそうではない…」
後鬼の答えに、前鬼が言う。
「確かに…そうじゃのう…」
「見ようによっては…」
「紅牙や真魚殿と変わらぬくらいか…」
後鬼はそう感じていた。
「そこが儂には引っ掛かるところじゃ…」
「引っ掛かるとはどういうことじゃ…」
後鬼は、前鬼の考えが分からなかった。
「四鬼一族の秩序が乱れておる…」
「何かがあったということじゃ…」
前鬼がその可能性に触れた。
「起きる筈のない事…」
「起きたのではなく、起こしたというのか…」
後鬼がその意味を捉えた。
「そうじゃ…」
前鬼が答えに頷いた。
「それが、よりにもよって今だ…」
紅牙が二人の話に口を挟む。
「それもそうじゃ…」
後鬼が紅牙の言葉に乗った。
「真魚殿がおると言うのになぁ…」
前鬼がそう言って笑った。
次回へ続く…