空の宇珠 海の渦 第九話 魂の鼓動 その四十二
真魚と嵐は陽が昇る前に出かけた。
初瀬の奥に寺がある。
その寺のお堂の前。
そこが待ち合わせの場所であった。
「これだ…」
真魚がそう言って、何かを投げた。
蜻蛉が難なく受け取る。
「これが…」
蜻蛉が手にした物は巻物であった。
「巻物であったのか…」
山蝉が、蜻蛉の手にしたものを見ている。
「何も聞かされてなかったのか…」
二人の様子に真魚が呆れている。
「我らが一族の秘密…」
「それが何であるか知る者は一人だ…」
蜻蛉が、巻物を見て言う。
「その一人とは劉羽とかいう奴か…」
真魚が更に問う。
「そうだ、今は劉羽様が我が一族の長だ…」
「四鬼一族か…」
真魚が蜻蛉の答えにつぶやく。
「約束は守ってもらう…」
真魚が蜻蛉と山蝉に言った。
「俺達はこれを頂きに来ただけだ…」
蜻蛉が真魚に言う。
鹿牟呂と浅葱の命までは取らない。
そう言う事である。
「だが、お主はあの時…」
「鹿牟呂を殺そうとしたのではないのか…」
真魚が蜻蛉にその理由を聞く。
「手に入らねば殺せ…」
「劉羽様にそう言われたからだ…」
「鹿牟呂が死ねば無いも同じか…」
真魚がそう言って笑みを浮かべる。
「そうだ…」
蜻蛉が、手にした巻物を見ている。
「おそらく、これは開祖様が会得した秘術…」
「それが、他に漏れることはないのだ…」
蜻蛉はそう言いながら、肩から掛けてある袋に入れた。
「ところで、劉羽とやら…今どこにいる…」
真魚が急に話題を変えた。
「劉羽様は神出鬼没…」
「俺達にもそれは分からない…」
蜻蛉が真魚に答える。
「地の龍…動くのはいつだ…」
真魚が更に踏み込んでいく。
「俺達は何も知らぬ…」
「それはお主の方が分かるのではないのか?」
蜻蛉は真魚の中に、底知れぬ力を見ていた。
「劉羽とやらが小角殿の考えを逆手にとるなら…」
「俺は、次の新月だと考えている…」
真魚がそう言って笑みを浮かべた。
次回へ続く…