空の宇珠 海の渦 第九話 魂の鼓動 その四十一
朝日が邑を照らしている。
稲刈りが終わった田んぼ。
一つの終わりが寂しさを感じさせる。
しかし、それは…
新たな時に向けての休息でもある。
壱与は、三諸山に祈りを捧げる。
それが日課の一つでもある。
その帰り…
「綾人との約束を果たさないと…」
目の前の田んぼを見てそう思った。
「真魚も嵐も朝からいないし…」
「皆で行くって言ってたのに…」
壱与の心が、巴御前に寄り添っている。
「あれっ?」
邑の入り口付近…
二人の姿を見つける。
浅葱と綾人…
「あの二人…」
壱与がある事に気付いた。
「あんたって浮き沈みが激しい人だね…」
落ち込んでいる綾人に浅葱が言う。
「それが性分なんだから仕方ないよ…」
綾人がうつむいている。
「私が武術教えてあげようか?」
浅葱に悪気はない。
しかし…
その言葉すらも綾人の心を剔る。
「それは…」
綾人にも男としての自尊心がある。
女の浅葱に教えてもらう。
それが…
心の何処かで拒んでいる。
「綾人…」
「あんたって弱いくせに…」
浅葱がそこまで言いかけて止めた。
うつむいていた綾人が顔を上げる。
一瞬、二人の視線が重なる。
「あっ…」
浅葱が空にその視線を向けた。
「弱いのは分かっている…」
認めたくない事実。
しかし、綾人は…
苦しさの本当の理由に気付いていない。
「弱いくせに、私を庇ったよね…」
浅葱がそう言って、綾人を見た。
「えっ…」
浅葱の言葉でそれを思い出した。
綾人が忘れていた事実。
「うれしかったよ…私…」
「私にも守ろうとしてくれる人がいる…」
浅葱の言葉が、綾人の心に染みこんでいく。
綾人の心の中で、混じり合う。
浅葱の心と自らの心…
「そうなんだ…」
「浅葱を…守れなかったんだ…」
「だから…」
綾人は空を見た。
「弱くてもいい…」
「その時に動ける…」
「その方が先じゃない?」
浅葱はその空に向かってそう言った。
次回へ続く…