空の宇珠 海の渦 第九話 魂の鼓動 その三十九
後鬼は老師の言葉を受け止められなかった。
「あのような者達が、小角様と関わりがある…」
後鬼にはその事実が信じられない。
「小角様にとって最後の切り札…」
「それを使う事はないと思っていたはずじゃ…」
老師が、小角の意志を伝えている。
「最後の…切り札…」
「それが裏側だというのか…」
前鬼が、知識の灯りを見つめている。
前鬼の中に眠る膨大な知識。
その光の中に答えがある。
「まさか…四鬼一族か…」
前鬼がつぶやいた。
「そうじゃ…」
老師が頷いた。
「そうじゃったのか…」
「小角様が…」
「あの者どもに託したものは…」
後鬼が、真実に触れている。
「人の正しさは危うい…」
「小角様はそれを嘆いておった…」
老師の言いたいことは後鬼にも分かる。
小角自身、あらぬ嫌疑で島流しにされた。
後鬼は、その小角の心を良く知っている。
「もし…人々が道を誤ったなら…」
「その時は…」
「闇をもって…」
老師はそこまで言いかけて止めた。
「それが、奴等の考えなのか…」
「奴等は、その時を今だと考えておるのか…」
後鬼が唇を噛みしめる。
「確かに…」
「考えようによってはそう見える…」
「だが、人々には罪はない…」
前鬼は、貴族達の行いを良しとは見ていない。
「紅牙、悪いがあれを…」
「はい…」
老師の指示で、紅牙が大きな箱を持って来た。
漆を施された美しい箱。
「これを知る者は儂らだけじゃ…」
老師がその蓋を開けた。
「なんと!」
前鬼はその波動に震えを覚えた。
「こ、これは!」
気がつくと…
後鬼の瞳から、涙が落ちていた。
次回へ続く…