空の宇珠 海の渦 第九話 魂の鼓動 その三十八
「怪しい男が護摩を焚いているらしいな…」
真魚は船に掴まる二人に言った。
「なぜ、それを知っている…」
知るはずのない事実…
蜻蛉は真魚の言葉に動揺している。
「だが…」
「それを知ったところでもう遅い…」
「ほう…」
蜻蛉の言葉に、真魚が笑みを浮かべる。
「今頃…劉羽様の修法が完成しているはず…」
蜻蛉が不敵な笑みを浮かべている。
「この国の始まり…」
「そこから連なる龍の背骨…」
「それが何を意味するのか…」
「お主には分かるであろう…」
蜻蛉が何かに憑かれた様に話す。
「なるほど…そう言う事か…」
真魚が笑っている。
「では聞こう…」
「何の為にそれをする!」
真魚が二人を睨み付ける。
それを聞いた蜻蛉が、笑みを浮かべた。
「世直しだ…」
「腐りきったこの国の…」
蜻蛉が真魚の目を見て言う。
「下らぬ…」
「それなら腐りきった奴等だけをやればいい…」
真魚がつぶやいた。
「まぁ良い…」
「命だけは助けてやってもいい…」
「その代わりに二度と来るな…」
真魚が二人に向かって言う。
「それは、出来ぬ相談だ…」
「俺達は鹿牟呂に用がある…」
蜻蛉は浅葱を見ている。
「鹿牟呂が隠し持っている物…」
「それを持ち帰らねば命はない…」
真魚がそう言った。
「…」
蜻蛉が黙り込んだ。
「図星か…」
真魚が笑みを浮かべる。
「だったら…」
「俺がそれを持って来てやる…」
「なんだと!」
真魚の口から出た、信じられない言葉…
蜻蛉は開いた口が塞がらない。
「それを手にしたら…」
「二度と鹿牟呂と浅葱に手を出すな!」
真魚がそう言った。
浅葱が、信じられない様子で真魚を見ている。
「佐伯様…」
「全部…分かっていたの…」
真魚がいた理由…
自分たちの為に…
浅葱はそれを初めて知った。
「よ、よかろう…」
蜻蛉がようやく声を絞り出した。
「この次はない…」
「覚悟をしておくんだな…」
真魚がそう言って蜻蛉と山蝉を見た。
次回へ続く…