空の宇珠 海の渦 第九話 魂の鼓動 その三十四
「浅葱、下がって!」
突然、綾人が前に出た。
「お主には用はない!」
蜻蛉が錫杖を振った。
「綾人!」
浅葱が名前を呼んだ時、綾人は地面に倒れていた。
「次は浅葱の番だぞ…」
山蝉が笑みを浮かべる。
「気易く人の名を呼ぶな、汚らわしい…」
浅葱が山蝉を睨む。
「その気の強さがたまらぬ…」
山蝉が笑みを浮かべながら近づいてくる。
「悪く思うな、恨むなら父親を恨め…」
そう言いながら蜻蛉が後ろに回り込む。
「どうして、父さんが!」
浅葱が、蜻蛉の言葉に気を取られた。
「うっ!」
山蝉の錫杖が浅葱の脇腹に食い込む。
うずくまる浅葱を、山蝉が羽交い締めにした。
今度は蜻蛉の錫杖が浅葱に向かう。
「!」
浅葱はあっという間に気を失った。
「残りは後のお楽しみだ…」
山蝉が笑みを浮かべながら手足を縛り、口に紐を掛ける。
そして…
大きな身体の浅葱を軽々と抱え上げ、その場を去った。
あっという間の出来事。
地面には、浅葱の籠と…
気を失った綾人だけが残されていた。
「おい、真魚!」
嵐が先に気付いた。
「奴等か…」
真魚がすぐに表に出た。
だが姿は見えない。
「何しに来たのだ…」
嵐が離れていく波動を感じとっている。
「あれは!」
真魚が綾人を見つけ走り出す。
「おい、綾人!」
真魚は綾人を揺すり起こす。
「う…」
綾人が苦しそうに目を開けた。
「何があった…」
すぐに真魚が聞く。
「あっ!」
綾人がすぐに身を起こした。
周りを見渡してその姿を探す。
「浅葱が…いない…」
「妙な格好をした二人組の男に!」
綾人は真魚に状況を説明した。
「やはり…そう来たか…」
「だが、女一人を抱えてそう遠くには行けまい…」
真魚が笑みを浮かべて言った。
「嵐、行くぞ!」
真魚がそう言うと、突風が吹いた。
綾人は思わず目を瞑った。
再び目を開いた時…
目の前に金と銀に耀く、美しい獣がいた。
「これが…嵐様…」
綾人が驚いている。
「本当に神だったんだ…」
真魚と嵐はあっという間に消えた。
残された神々しい獣の波動に…
綾人は、心を奪われていた。
次回へ続く…