空の宇珠 海の渦 第九話 魂の鼓動 その二十四
後鬼は森の中を走った。
「面倒じゃな…」
そう言うと木の上まで跳んだ。
「あれがいい…」
更に木の枝を利用して、一番高い木の上まで登った。
「あっちか…」
島はなだらかな山になっている。
その頂上付近。
後鬼はそこ照準を定めた。
木の枝を巧みに利用して、木から木へ飛び移る。
そして、あっというまに島の頂上付近まで来た。
「この辺りじゃな…」
後鬼は音を立てないように、再度木の上に登った。
「媼さん、どうじゃ…」
ようやく前鬼が追いついて来た。
「今からじゃ…」
木の上から辺りを覗く。
「あれか!」
頂上付近、木の間から光が漏れている。
「火を焚いておるのか…」
何かが燃える匂い…
風に乗って、それがただよってくる。
鬼の目と鼻…
人より鋭い感覚が、それらを捉えた。
「爺さん、見つけたぞ…」
後鬼がその方向を指さした。
「行って見るか…」
前鬼と後鬼は気配を消し、その炎に近づいて行った。
真魚は草の上に座って満月を見ていた。
冷たくなった夜風が、側を抜けて行く。
お腹が一杯になった嵐は離れで寝ていた。
『どうした…お主らしくもない…』
美しい声が真魚の中に響く。
「俺らしくないか…」
真魚がそうつぶやいて笑った。
何かが動き始めている。
だが、その意図が全く掴めない。
西の龍と東の龍…
突然現れた、蜻蛉と山蝉と言う怪しい奴等…
『あの鬼共が答えを知っている…』
美しい声が真魚に言った。
「前鬼と後鬼か…」
「なるほど…」
真魚は笑みを浮かべた。
「こちらには答えがないか…」
真魚はそう言って寝転んだ。
月が真魚を見ている。
「美しい…」
『ふふふっ』
美しい声が笑っている。
声の主に言ったのか、月に言ったのか…
それは…
真魚だけが知っていた。
次回へ続く…