空の宇珠 海の渦 第九話 魂の鼓動 その二十三
空には星が輝いている。
満月の光が辺りを照らしている。
誰かに見られるとまずい…
念には念を入れこの時間まで待った。
前鬼と後鬼は肩を組み、残ったお互いの手を合わせた。
すると…
二人の身体が揺らぎ形を変えた。
そこに現れたのは、翼を持った大天狗であった。
大天狗が翼を羽ばたくと、風が巻き起こる。
次の瞬間には、その姿が消えていた。
あっという間に海を飛び越え、目的の島に着いた。
「ふ~」
「久しぶりに使うと疲れるなぁ…」
変身を解いた後鬼の息が荒い。
「年はとることしか出来ぬからのう…」
前鬼が息を吐きながら言った。
「さてと…」
後鬼が気合いを入れ直した。
「経塚はこの辺りじゃったのう…」
遠い記憶を呼び起こし、その場所を探す。
辺りは真っ暗だが、鬼の目には関係ない。
「確か洞窟の様なところに…」
前鬼がそれを思い出した。
「そうじゃった!」
「多分、あの辺りじゃ!」
あれから百年以上経っている。
後鬼もようやく思い出した。
「ここじゃ…」
その場所に向かい、場を確かめる。
「こ、これは…」
前鬼と後鬼が同時に声を上げた。
そこから漂う怪しげな波動。
それは…
ここに来るまでに立ち寄った、
経塚と同じものであった。
「小角様の経塚が…」
後鬼は淋しげに見つめている。
小角との想いで…
その一つが消えて無くなった。
後鬼には耐えがたい出来事。
その瞬間でもあった。
「入り口が変わった…」
「媼さん、あの時の波動、覚えておるか…」
前鬼が言った。
「そういうことか…」
後鬼がその事実に考え込んだ。
「真逆じゃ…」
前鬼がその事実を口にした。
「これは、誰がしたことじゃ…」
後鬼の言葉には、怒りが含まれている。
「わからぬ…」
「だが、何かを起こそうとしている…」
「それは間違いない…」
前鬼が拳を握りしめた。
その時…
「!」
「爺さん!これは!」
後鬼がその波動に気が付いた。
入り口に伝わって来る。
強い波動。
「あっちか…」
前鬼がその方向を見定める。
「爺さん、行くぞ!」
それを確かめる。
後鬼の強い意志が感じられる。
「隣の島じゃな…」
後鬼がその場を見定めた。
「ここからなら、変身することもなかろう…」
大潮…
潮が引いて、隣の島と繋がっている。
「いくぞ!」
後鬼がそう言って跳んだ。
前鬼が黙って後に続いた。
次回へ続く…