空の宇珠 海の渦 第九話 魂の鼓動 その二十
真魚達は離れに案内された。
生活に必要なものは何も無い。
板の壁と屋根があるだけである。
中央に四つの柱が立っている。
その中に石が敷き詰められている。
そこで火を起こし何かを燃やす。
その必要があるからである。
「浅葱と真魚が知り合うなんて…」
壱与は面白くて仕方がない。
「この娘、危なかったのじゃぞ…」
嵐が目を細め浅葱を見ている。
「浅葱あなた、また!」
止めろと言っても聞くはずがない。
壱与もその性格は良く知っている。
「この方達に出逢ったおかげで、私はここに来られました…」
綾人が浅葱を庇う形になった。
「ところでお主、壱与をどうするつもりじゃ…」
嵐が綾人を睨んだ。
「そのことでございますが…
「私の主人が、あなたに会いたいと言っておられます…」
「主人…?」
「あの…女の方…」
壱与の中にその姿が浮かんだ。
「そ、そうです…」
「ですので、一度お屋敷に来て頂きたいのです…」
綾人は丁寧に壱与に告げた。
「何か理由がありそうだな…」
真魚が話しに加わった。
「御前様は一度体調を崩されました…」
「夢を見たそうでございます…」
「何かを探し回る夢だったそうです…」
「毎晩、毎晩その夢は繰り返されました…」
「それで、あるお方に見て頂いたのです…」
「そのお方に…」
「三諸山の神と通じる女がいると…」
「壱与様のお名前を聞いたのでございます…」
「すると、不思議な事に、夢を見なくなったそうです」
「そして、御前様の体調が元に…」
「それからです…」
「御前様が会ってみたい…と言い始めたのは…」
綾人は皆に説明をした。
「そのお屋敷はどこにあるの…」
壱与が綾人に聞いた。
「ここから申の方角、一時ほど歩いたところに…」
綾人が説明する。
「そうすると…あのお屋敷か…」
浅葱が腕を組みながら頷いている。
「ふ~ん」
「あんた、立派な方だったんだね…」
浅葱は綾人を見ている。
「いえ、そんなことはございません…」
綾人が、浅葱の視線に戸惑っている。
「わかったわ、今すぐは無理だけど、近いうちに必ず…」
「ありがとうございます!」
「御前様もお喜びになると思います!」
綾人の声の高さが一つ上がった。
「俺も付いていく…」
嵐がそう言って、綾人を見た。
壱与の事となると、嵐は真剣である。
「えっ…」
それを聞いた綾人が戸惑っている。
神と言っても見かけは犬である。
お世辞にも美しいとは言い難い。
「皆で行けば良い…」
真魚がそう言った。
「わ、私も!」
浅葱が驚いている。
「しばらくは、一人にならない方が良い…」
真魚が浅葱にそう言った。
「そ、そうだけど…」
未だ嘗て、そんなところに行ったことが無い。
浅葱の不安は分からぬでもない。
「決まりだ…」
真魚が強引に話をまとめた。
「一応、御前様に確認を取って…再び…」
綾人は自信なさげに皆に言った。
次回へ続く…