空の宇珠 海の渦 第九話 魂の鼓動 その十八
「おい!」
「お主か、壱与を調べている奴は!」
どこからか声が聞こえる。
綾人は声の方向を確認した。
「あのお方は…?」
浅葱と目を合わす。
「佐伯様よ…」
「佐伯様…そのようなお方が…なぜ…」
綾人は、それを言いかけて止めた。
「お主!どこを見ておる!」
また、その声が聞こえる。
綾人が目を真魚に移す。
「ここじゃ!ここ!」
「あれっ!」
綾人は、真魚の足下を見た。
銀色の小犬。
それが目を合わせている。
「やっと気付きおったか!」
足下の嵐が、綾人に言った。
「い、い、犬が…」
「喋った…」
口にしてはいけない言葉。
綾人も例外ではない。
「犬ではない!俺は神だ!」
嵐がそう言って、綾人を見た。
「か、神様…!?」
綾人の開いた口が、塞がらなくなった。
「無理もあるまい…」
真魚があきれ顔で笑っている。
「お主らには…」
「この溢れる霊力がわからぬのか…」
「そう言われてもねぇ…」
自分も信じられない。
浅葱が綾人を庇い、目を合わす。
「壱与はすぐに見抜きおったぞ…」
嵐がその事実を二人に告げる。
「壱与が特別なのよ…」
浅葱はそう言って、綾人を見た。
「それで、壱与をどうするつもりだ!」
嵐は、壱与のこととなると真剣である。
「お知り合いなのですか、壱与様と…」
一応、神様…
綾人は丁寧にそう聞いた。
「俺達は仲間だ…」
嵐はそう言ったが、それ以上…
嵐は壱与に命を救われている。
命の恩人であり、最愛の人でもある。
「本当なのですか!」
どういうわけか、繋がりが強くなる。
綾人には、そんな気がしてならなかった。
森の中であった。
小さな影と大きな影…
その二つが向き合っている。
口に何かを運びながら、話をしている。
「そうか…やっと見つけたのか…」
大きい影、山蝉が言う。
「それにしても、あの男…」
小さい影、蜻蛉が険しい表情を見せる。
「もう少しで仕留められたものを…」
そして、奥歯を噛みしめる。
「まさか、お主の術を封じたのか…」
山蝉が蜻蛉の表情から、そう読み取った。
「あの男は、侮れぬ…」
「それは…どんな奴だ…」
気になった山蝉が、蜻蛉に問う。
「黒い棒を持った男だ…」
「黒い棒だと…」
蜻蛉の答えに、山蝉の顔色が変わる。
「ひょっとして…」
「朱い瓢箪を腰に下げていなかったか?」
「なぜ、それを…」
山蝉の答えに、今度は蜻蛉の顔色が変わる。
「俺は、小娘と遊んでいる所を邪魔された…」
「ほう…」
「女と見れば見境がない…」
「いつもの悪い癖が引きよせたのか…」
蜻蛉がそう言って笑った。
「だが、その小娘…なかなかの使い手であった…」
「お主が負けたのか…」
「いや、負けはせん…」
「これからと言う時に、止められた…」
「あの男にか…?」
「そうだ、あの男にだ…」
山蝉は、その時の状況を説明した。
「あと少しで、闇の芽が生える…」
「それを奴は止めたのだ…」
「ほう…」
蜻蛉が、その話に感心を寄せる。
「闇の芽を摘む…」
「これは、偶然なのか…」
「それとも…」
何かを考えながら…
蜻蛉は宙を睨みつけていた。
次回へ続く…