空の宇珠 海の渦 第九話 魂の鼓動 その十二
真魚は山の頂上にいた。
龍王山。
それは三諸山の近くにある。
「ここなのか…」
小犬の嵐が面倒な様子で聞く。
その頂上から倭の国が見渡せる。
だが、既に都はここにはない。
「さて…」
真魚はそう言うと…
少し拓けた草原に棒を立てた。
そして、地面に座り込んだ。
結跏趺坐。
「仕方ない…」
「お主の傘の中なら大丈夫じゃろう…」
嵐はすぐ横で寝転んだ。
その嵐を尻目に、真魚は懐から五鈷鈴を出した。
ちりぃぃ~ん!
ちりぃぃ~ん!
ちりぃぃ~ん!
間を空けて三度。
その間は、一つの響の終わりでもあった。
その波動が倭の国に伝わっていく。
空を超え、星の世界に響いていく…
真魚は目を閉じて、印を組み、真言を唱えた。
「おんめいぎゃしゃにえいそわか…」
八代龍王の真言である。
その瞬間…
真魚の身体が耀き始めた。
七つの光の輪が現れ、回転を始める。
その光が、真魚の身体を包み込んでいく。
やがて…
真魚の身体が、その光で見えなくなった。
そして…
光が膨れあがる…
生命が広がって行く…
山の頂上を包み込む…
一瞬…
その光が天に向かった…
そう見えた。
すると…
辺りが金色の世界に変わった。
金色の光の粒が、舞い降りている。
しゃん、しゃん、しゃん…
しゃん、しゃん、しゃん…
どこからか、鈴の音が聞こえてくる。
そして…
目の前に…
一際輝く、大きな光が現れた…
真魚はその波動に触れた。
「私に何か用か…」
光を纏った人影が見える。
「伺いたいことがあります…」
真魚は光の存在にそう言った。
「真魚…」
壱与はその波動に気がついた。
畑で雑草を抜いていた。
その時であった。
大きな波動…
それが…
壱与の身体を抜けて行った。
「龍王様…」
壱与はそう感じた。
「真魚…」
壱与の口元に笑みがこぼれた。
壱与の不安が消えた…
その瞬間であった。
次回へ続く…