空の宇珠 海の渦 第九話 魂の鼓動 その八
真魚と嵐は目的の場所に向かっていた。
しかし、嵐はその場所を知らない。
「なぁ、真魚よ…」
嵐の声に元気がない。
「腹が減ったのか…」
真魚は既に気付いていた。
「気付いておったならどうにかしろ!」
嵐は最後の抵抗を見せた。
「ほう…」
真魚がそう言って急に立ち止まった。
相変わらず森の中…
目の前は獣道である。
少し離れた場所に大きな岩が見える。
その岩の前…
そこに二人の人影が見える。
仲間ではない。
敵同士。
漂う空気がそう言っている。
「丁度良かったかも知れぬぞ…」
真魚がちらりと嵐を見た。
「おい、真魚!飯じゃ!」
嵐の言葉を無視して、真魚は歩き続けた。
そして…
二人の姿がはっきり見える…
その距離まで近づいた。
そこでようやく、真魚が足を止めた。
一人は大柄な男。
両手に鎌のようなものを持っている。
背を向けているので、顔は分からない。
もう一人は小さな男であった。
修験者のような格好をしている。
手に錫杖を持ち構えている。
「この辺りの者ではないな!」
大柄な男がそう言っている。
一人は山の民のよう…
もう一人は修験者…
その格好から見れば、二人には争う理由がない。
しかし…
起きないはずの争いが、始まろうとしている。
先に動いたのは山の民の男であった。
右手に手に持っていた鎌を投げた。
修験者が難なく避ける。
だが…
避けたはずの鎌が、今度は後ろから戻って来た。
鎌の柄の端に、紐のような物が付いている。
紐を手で引けば、戻ってくる仕組みだ。
その鎌の動きを知っていたのか…
修験者は既に横に跳んでいた。
かなり身軽である。
「ここで遭ったのを不運だと思え!」
今度は左手の鎌をその横に投げた。
「二度も通じると思うな!」
修験者の男がそう言った時である。
今度は鎌が弧を描くように動いた。
「おっと!」
かちぃぃん!
間一髪…
修験者の錫杖が、鎌をたたき落とす。
「やるな…」
修験者の男はそう言うと、手刀印を組んだ。
「えいっ!」
修験者の男は、その気合いと共に後ろに下がった。
「おい、真魚!」
嵐がその異変に気がついた。
拳ほどの黒い玉が、宙に浮かんでいた。
次回へ続く…