空の宇珠 海の渦 第九話 魂の鼓動 その六
「おい、真魚!」
向かう方向が違う。
嵐は、三諸山に向かうと思っていた。
しかし、真魚が歩き出した方向は真逆。
北に向かった所で一度止まった。
「壱与の祈りの意味…」
「知りたくはないのか…?」
真魚が振り返り態にそう言った。
「祈りの意味だと…」
嵐が食いつくのは分かっている。
真魚の企みがその笑みに現れている。
嵐は人の世には興味がない。
あるのは食い物の事だけである。
その嵐が興味を示している。
これは、非常に稀なことなのである。
「それをこれから確かめに行く…」
真魚がまた歩き始めた。
「壱与のことだ…」
「自分のことは二の次か…」
嵐は壱与の祈りの意味を考えていた。
「俺は聞いておらぬが…」
「お主、あの神と何を話しておった…」
荒ぶる神…
その神を起こしてまで、何かを聞いた。
壱与の願いと無縁ではない。
人の事に疎い嵐でも、それには気がついた。
「熊野の一件…」
「あの続きだ…」
真魚は後ろの嵐に言う。
「あれはあれで…終わりではないのか?」
嵐はそう思っていた。
「全ては繋がっている…」
「そういうことになるな…」
始まりがあれば終わりがある…
そして…
終わりもまた、始まりなのである。
「それに、俺にも関係がある…」
真魚はそう言って、笑みを浮かべた。
「どうして、それとこれが関係があるのだ!」
嵐には理解出来ない。
熊野とはどう考えても結びつかない。
「ひょっとして…今いない奴等もか…!!」
嵐がそのことに気がついた。
「ほう…」
「壱与のおかげで今日は冴えているな…」
真魚が笑って言う。
「それと、これだ…」
真魚はいつの間にか…
それを右手に持っていた。
「真魚、それは…」
嵐には覚えがある。
「最近、これが気になってな…」
神の一族が持っていたもの…
「この剣が、騒がしいのだ…」
右手に持った剣…
「お主、またなにして来たのか…」
嵐が目を細めて真魚に聞く。
なにとは…
以前、金峰山でしでかしたことである。
「昴や珠婆さんの許可はもらったぞ…」
「それに…」
「扉が閉まった今となっては、もう返すことも出来まい…」
その切っ先を見つめて言った。
「その剣がどうかしたのか?」
嵐には良く分からない。
「では、聞くが…」
「幾つも存在するもの…どれが本物か…」
「それを確かめる方法は…?」
真魚が笑みを浮かべ言う。
「そんなことは俺には分からぬ…」
嵐がその問いを投げ返す。
「では、お主が食べたもの…」
「もし、同じ料理が出て来たら…」
「作った者が誰かわかるか?」
真魚が問題をすり替えた。
「それなら、分かる!」
「誰が作ったかすぐに分かるぞ!」
嵐が自信満々に答える。
「では、この剣という食い物は…」
「本物か、偽物か?」
真魚がそういう聞き方をした。
「食えぬものは、作った奴に聞くしかなかろう…」
嵐にはそういうしかなかった。
「それが答えだ…」
真魚がそう言って笑った。
「本物か、偽物か…」
「それを知ってどうするのだ…」
嵐には先の事が全く読めない。
「それを知りたい者達がいる…」
真魚はそう言いながら、剣を一振りした。
「ならば…教えてやるだけだ…」
次の瞬間には…
その剣は何処かに消えてなかった。
次回へ続く…