空の宇珠 海の渦 第九話 魂の鼓動 その三
谷に沿って登ると、傾斜が緩やかになった。
「そろそろ到着か?」
嵐にとっては何事も面倒なことである。
「心配するな、この辺りは村も近い…」
真魚が嵐の心の内を口にした。
その時…
真魚が三諸山の方を見た。
「ほう…」
真魚が目を細めて笑みを浮かべた。
祈りの波動…
真魚はそれを感じ取った。
「壱与か…」
嵐がその方向を見ている。
「これが、あの壱与か…」
嵐はその想いを受け取っていた。
しばらく、会っていない。
だからこそ分かることもある。
その波動から感じる、切実な願い。
「真魚、行くぞ!」
今度は珍しく、嵐から動いた。
壱与の祈り…
それは、嵐の奥深くまで届いていた。
しばらく進むと…
真魚は左の尾根に向かって歩き始めた。
「真魚、そっちは…」
嵐が真魚を窘める。
「ほう…」
「お主でもそんな事を気にするのか…」
真魚が笑いながら嵐を見た。
三諸山から抜けた。
それは、違う領域に入った証でもある。
「別にどうと言う事はない…」
「俺は神だぞ!」
そう言いながらも、嵐は真魚の後ろに回った。
強い力は全てに作用する。
結界に惑わされるのは、強い力の証でもある。
その感度が迷いを生み、その力が混沌の餌食となる。
「この辺りか…」
真魚が立ち止まった。
そして…
持っていた棒を地面に立てた。
どんっ!
その瞬間…
何かが地面を伝わっていく。
「おい、真魚!」
嵐が思わず飛び上がる。
「目覚ましだ…」
真魚がそう言って笑みを浮かべた。
しばらく時が流れた。
すると…
ごごっごごおぉぉぉ…!!!
今度は向こうから何かが戻ってくる。
地面を伝わる波動…
「真魚、お主…」
嵐がその方向を見ている。
「やはり、ここにいたか…」
真魚がそう言って笑みを浮かべた。
「全く…呆れた奴じゃ…」
「お主は神まで敵に回すつもりか…」
嵐がそう言って歩き始めた。
次回へ続く…