空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その五十七
太陽の光が、新しい大地を照らしている。
大地の波動が全てを包み込む。
村も人も生まれ変わった。
もう、戻ることは決して無い。
村の外れで二人が立っていた。
阿瑠と昴。
舞衣の姿は、そこには無かった。
「ありがとうございました…」
「私は忘れない…」
手を振るのを止め、昴が言った。
沢山の事を教わった気がする。
そして、大切なものを見つけた。
「昴、お願いがある…」
阿瑠が昴に言った。
「何?」
「笛を吹いて、くれないか…」
昴は、その返事をしなかった。
ただ、阿瑠を見て、微笑んだ。
笛を出し、口に当てた。
すうっと、息を一度だけした。
笛の音が響いた。
昴は、阿瑠の横顔を見ていた。
その視線の先には、真魚がいた。
「美しい…」
幼き頃聞いた、笛の音。
それは、今は亡き母の音色に似ていた。
阿瑠は笛の音を噛みしめながら…
音と風に身を委ねた。
阿瑠の赤い髪が風になびいている。
阿瑠と昴は…
いつまでも、その姿を見ていた。
昴の笛の音が、届いている。
風が、その旋律を運んでいる。
「なぁ、真魚よ…」
嵐が真魚に話しかけた。
「あれで、よかったのか…」
嵐には気になることがあるようだ。
「あれとは何だ…」
真魚が、嵐に聞き直した。
「舞衣の事じゃ…」
「舞衣はどうなるのじゃ…」
「それは、舞衣が決める…」
嵐の問いかけに、真魚が答えた。
「自らで死を選ぶと言うことか…」
嵐はそう受け取った。
「そういう見方も出来る…」
舞衣の身体に宿った古の力。
それは、人の寿命を超える。
「だが、閉ざされた村には、必要かも知れぬ…」
真魚がつぶやいた。
「どういうことじゃ…」
嵐にはどうでも良いことではある。
「いずれまた、新たな血が必要になる…」
「そして、それには…」
「今閉ざされている扉を、開く必要がある…」
「血を繋ぐ為には、絶対だ…」
「それが、神の血族としての使命なのだ…」
真魚が導いた答えだ。
「神の血族…」
嵐が一言つぶやいた。
「珍しいではないか…」
嵐が人のことを気にしている。
嵐も少しずつ変わっている。
そんな嵐を、真魚が見て笑った。
「もうすぐ、大地の仕掛けが動く…」
「ここを基点に…」
「三つの神の力が動き始める…」
「そして、世界が変わっていく…」
真魚が嵐に言った。
「だが、これは始まりに過ぎぬ…」
「この次が、本当の変わり目かも知れぬ…」
「それまでは…」
真魚が言った。
「それは、いつまでのことじゃ…」
嵐が舞衣を想っている。
その運命に思いを寄せている。
「千年か…千五百年か…」
真魚が立ち止まって、空を見上げた。
雲が流れている。
時の流れは止まることは無い。
「その時…世界がまた変わるのか…」
嵐が、同じ空を見て言った。
第八話 神の血族 完