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空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その五十五






もうすぐ夜が明ける。

 


新しい朝が訪れる。

 


傷ついた阿瑠は、屋敷の床で休んでいた。



昴が阿瑠の側で座っている。

 


「阿瑠…」

 


後鬼の言葉を信じないわけではない。

 


ただ、心配なだけだ。




挿絵(By みてみん)





少し離れて、前鬼と後鬼、舞衣が見ていた。



「健気じゃのう…」



後鬼がつぶやき、笑みを浮かべている。




「しかし、赤毛だったとはな…」



前鬼が、阿瑠の髪の色を見て言った。




「南の方の出と言っておったが…」



「まさか…異国の血か…」



前鬼と後鬼は、何かを掴んでいるようだ。

 



「でも…」



「朔が見たら、腰を抜かしそう…」

 


舞衣が、朔の顔を思い浮かべていた。

 



「それに…」



「昴にあんな一面があったなんて…」



幼なじみの舞衣も、初めて知った。

 



「義沙も…」



「あれ、義沙は…」



義沙の姿が見えない。



そのことに、舞衣が気付いた。


 



「あの男は、真魚殿と外に行ったぞ…」



前鬼がそれを見ていた。

 



「あとは、真魚殿に任せておけば良い…」


 

後鬼が、そう言って舞衣を見た。

 



「それも…そうね…」



真魚がいなければ、どうなっていたかわからない。

 


だが、それすらも導きかも知れない。




「全ては繋がっているのじゃ…」

 


後鬼が言った。

 



「分かるわ…何となくだけど…」 

 


全てを繋ぐ光。


 

導いた男。



舞衣はそれを観じ、受け入れた。



そこに偽りなど存在しない。

 


あるのは真実だけであった。

 


舞衣の中に、ある感情が芽生え始めていた。






屋敷の外にある大木の前で、真魚と義沙が話をしていた。

 


その足下に、嵐が寝そべっている。

 


闇が薄らいでいる。


 

月ももうすぐ沈む。 

 



「おおよその話は、飲み込めた…」



「身に降りかかる粉は、自らで払うしか無い…」



義沙が真魚に答えた。




「だが、今聞いた話を口に出したら、俺の命もない…」



隠され続ける真実。

 


それも、闇の力の一部と言える。

 


正しいものを見ないよう、目隠しをされも民は気付かない。



それを利用して仕組みを作る。

 


それは闇の力を使っていることになる。

 



「他に…方法はない…」



「お主が、生きる為にはな…」

 


真魚が答えた。

 



「そう、うまく行くとは思えぬが…」



義沙がそう言って笑みを浮かべた。

 



「うまく行くことだけを考えろ…」



真魚が義沙に言った。

 



「それも…そうだな…」



「最初から、負けを認めることになるな…」



義沙は、自分の言葉に呆れて笑った。



その笑みの中に、不安はなかった。






 


「昴、親父によろしく伝えておいてくれ…」



義沙のその声に、昴が振り向いた。


 


「阿瑠の事はお前に任す…」

 


「それが、お前の宿命かも知れぬ…」



義沙が昴を見て笑った。

 



「村には来ないつもり…」



阿瑠の姿を見たまま昴が言った。

 



「いつもそうなのね…」



「黙って、私達の前から消えてしまう…」



昴が義沙を見上げた。

 



「今度は違うぞ…」



「ちゃんと、別れを告げに来た…」

 


義沙が、昴を見ていた。

 



「お前が止めてくれなければ…」



「俺は間違い無く、死んでいた…」



「ありがとう…昴…」



義沙の言葉で、昴の瞳から涙がこぼれた。

 



「止めるわよ!」

 


昴の声が響いた。

 



「だって、血は繋がっているのよ…!」



「母は違っても、私の兄さんじゃないの…」



昴の想い…

 


その波動が義沙に伝わっていく。

 



「婆さんは間違えてなかった…」



「それだけは言える…」



昴の波動が、義沙の心を揺らしている。




「だが、俺も間違えてはなかったのだ…」



義沙の意外な言葉。

 


今度は、昴の心が揺れた。

 


「それって…」




「王の証を持ち帰らなければ、俺の命は無い…」

 


「だが、それは村を守ることにもなる…」



義沙は、一つだけ嘘を言った。

 


王の証を持ち帰ったとしても、命の保証は無い。



 

「それって…」



昴の瞳から、涙がこぼれた。

 


昴は、その嘘を受け入れた。




「俺の宿命かも…しれぬな…」



義沙が手の中の、王の証を見ていた。

 



「兄さん…」

 


昴が義沙をそう呼んだ。

 


「子供の時、以来か…」



義沙が歩み寄り、昴の頭をなでた。

 



「俺は、すぐに立つ…」

 


「兄さん…」



昴は座ったまま、義沙にしがみついた。



今生の別れになる。



昴の心は揺れた。

 



「馬鹿な男だが…真っ直ぐだ…」



義沙は、阿瑠の寝顔を見ていた。

 



「何を言っているの…」



舞衣が、涙を流していた。

 


二人のことは、一番良く知っている。

 



「馬鹿はどっちよ…」



舞衣は…



幼き頃の想いを、追いかけていた。




挿絵(By みてみん)




続く…





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