空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その五十三
浄化の光が闇を支配していた。
そこにあるはずの星が、霞んでいる。
それほど、その夜の満月は美しかった。
「阿瑠はこれでいいの?」
側にいる昴が聞いた。
「意味の無い生き方は、したくない…」
阿瑠は昴に答えた。
「生きる意味って…」
昴にもそれは分からない。
今は…
間違っていないと感じるだけだ。
皆が、四つに分かれて屋敷の角にいる。
各の波動で、屋敷を囲んでいる。
その波動で、結界を張っているようだ。
鬼門である北東は、真魚と嵐。
北西は、前鬼と後鬼。
南東は、舞衣と義沙。
南西は、昴と阿瑠であった。
謎の式盤の前には美鷺だけがいる。
他には誰もいない。
波動を合わせる為に、集中している。
その時は近づいている。
「用が済んだら帰ればいいのに…」
舞衣の義沙に向けた言葉。
「その美しさが、堪えるな…」
舞衣の美しい唇。
その響が、義沙の心を揺らす。
「村の最後を見届けぬと、報告は出来ぬ…」
義沙はそれを言い訳にした。
本当は決心がつかないだけだ。
仲間を失い、一人だけ逃げ帰る。
ただの失態でしかない。
お上にどう説明して良いのか、考えあぐねている
うそでも、出任せでもいい。
何か理由を見つけておきたい。
そんなところだ。
「最後なんて、縁起でも無い…」
「村は、今から生まれ変わるのよ…」
舞衣は、義沙の言葉を窘めた。
「見届けねばならぬのだ…」
それが、義沙が決めた理由なのだ。
「妙な真似は、許さないわよ…」
舞衣が念を押した。
「美しい女に、締め殺されるのもいい…」
「あの世に送るだけよ…」
言った言葉が冗談でも…
事実、義沙の逃げ場はなかった。
舞衣の意思が、檻のように義沙を囲んでいた。
「あっ…!」
昴が、突然声をあげた。
「来たか…!」
側にいる阿瑠が、昴の波動を受け取った。
頭上の月に、心を奪われた。
昼間の様に、辺りが耀き始めた。
月が自ら耀いている。
光が宇珠を巻いている。
そして…
光りの螺旋が集まってくる。
「きれい…」
昴は無意識に手を広げていた。
いつのまにか…
金色の光で、世界が満たされていた。
その光が舞い降りてくる。
「こ、これは…」
何かが、身体を通り抜けて行く
阿瑠の瞳から涙が溢れた。
理由など無い。
意味など分からない。
光に触れる。
一つになる。
それは、こう言う事だ。
「美しい…」
光の中に立つ昴。
阿瑠は涙の中にそれを見ていた。
「これが…」
義沙も驚いていた。
祖母から聞いた事がある。
全てを繋ぐ光が存在する。
「こういうこと…だったのか…」
義沙の瞳から、光がこぼれていた。
「もう…遅いのだ…」
義沙がつぶやいた。
「俺は…裏切ったのだ…」
義沙の中の、低きものが洗い流される。
その光の中で、重き波動は存在出来ない。
「そう思うなら…」
「今から…始めればいいじゃない…」
舞衣が光の中で、笑みを浮かべて言った。
「始まりは、いつでも同じ…」
「今からなのよ…」
舞衣が言った。
「未来は、変えられる…」
「誰にでも…」
それは、まるで…
自らに言い聞かせるようであった。
「美しい響だな…」
その光の波動が、義沙を導いていく。
その心に触れて…
義沙の涙は溢れ続けた。
続く…