空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その五十一
「何か…おかしいぞ…」
「身体がぞくぞくする…」
美鷺 がその変化を感じている。
「まさか!闇か…」
後鬼はすぐにそれを観じた。
「波動が上がっていると言うのに…」
後鬼はそれを不思議に思った。
「これだけ波動が上がれば、低きものは近寄れぬはず…」
後鬼の考えは間違ってはいない。
「沢山の魂が…」
美鷺が、それを感じていた。
「もしや!篩か!」
前鬼が、何かを閃いた。
「帝の奴…多くの黒き者を送り込んだか…」
「今度こそ…失敗せぬように…」
前鬼は確信した。
「それでは…餌を撒いているようなものじゃな…」
「一人や二人ならまだしも…」
「無数の纏わり付くものが、落とされたのじゃからな…」
後鬼が笑ってそう言った。
「闇にとっては、願ってもない…」
「ご馳走さま…ということか…」
前鬼も全てを見抜いていた。
高き波動は細かく、速い。
低き波動は大きく、遅い。
低き波動は、高き波動については来られない。
溢れでた低き波動を、闇が狙っていたのだ。
「真魚殿と嵐が付いておる…」
後鬼が、力の差を感じ取っている。
「心配ないじゃろ…」
喧嘩はするが、嵐の力は認めていた。
「朱雀!」
真魚の棒が、灼熱の炎を上げた。
その炎が天まで昇り、巨大な鳥に姿を変えた。
「征け!」
真魚の声で、巨大な鳥が落ちてくる。
灼熱の炎をその嘴から放ち。
真っ直ぐに闇に向かう。
その波動が、闇の動きを止める。
闇が身構える。
炎で焼かれる事を待っている。
昴にはそう見えた。
「闇が受け入れている…」
昴がつぶやいた。
光と闇。
光が無ければ影は存在出来ない。
だが、闇の中で耀いてこそ、光は光と言える。
赤き炎が闇を焼いてく。
光が闇を切り裂いていく。
「すごい…」
舞衣はその光景に心を奪われていた。
阿瑠は口を開けたまま、動くことすら出来ない。
必死に抵抗する闇。
だが、その勢いも衰え始めた。
「青龍!」
真魚が叫んだ。
青い光が真魚の棒に集まってくる。
その耀きが膨れあがり、天に向かう。
そして、天に昇った碧き耀きが、龍の姿に変わった。
「征け!」
真魚が最後の札を切った。
碧き龍が、碧き炎を吐きながら頭を下げた。
螺旋を描きながら闇に落ちてきた。
その顎を闇に食い込ませ、碧き炎を吐いた。
碧き炎は、全てを浄化し宇宙に還す。
闇が硝子の様にひび割れている。
かけらがこぼれて、風に舞っていく。
時間はそれほどかからなかった。
青き龍がその首を上げた時、全てが終わっていた。
「戻れ、朱雀、青龍!」
ぎゃぃぃぃん!
真魚が叫ぶと、甲高い青龍の叫びが響いた。
その波動が、大地と空を抜けて行く。
闇は透明なかけらになり風に舞った。
「あれ?」
昴が気付いた。
光の盾も消えていた。
真魚が膝をつき、肩を揺らしている。
呼吸が荒い。
「大丈夫か?」
嵐がすぐに跳んできた。
「お主らの力も…相当上がったな…」
真魚が荒い呼吸の中でそう言った。
「おかげ様でな…」
嵐がそう言って笑っていた。
続く…