空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その四十九
義沙の後ろに四人の男が控えていた。
「ほう…」
義沙は、阿瑠の姿を見つけた。
「生き残りが一人いたのか…」
義沙はそういう言い方をした。
「昴と舞衣…そして見知らぬ男…」
義沙は、何かを考えている。
「あいつが…義沙か…」
阿瑠がつぶやいた。
阿瑠は義沙を知らなかったようだ。
「義沙、いつの間に倭の僕になったの…」
舞衣の身体が、既に耀いている。
「この地には、飽きた…」
「だからと言って、僕になったつもりは無い…」
義沙が、舞衣に向かって答えた。
「お主らが欲しい物は、俺が持っている…」
阿瑠が、前に出た。
「さて、そちらの生き残りは…」
「敵ですか…味方ですか?」
義沙が、阿瑠を挑発している。
「見た所、味方には思えぬのだが…」
義沙が、阿瑠を警戒している。
「俺には敵意は無い…」
「それは、どちらに対してもだ…」
阿瑠は、正直に答えた。
「ほう…面白いことを言う…」
「仲間はどうしたのだ…」
義沙は、何かを引き出そうとしている。
それは、阿瑠にも分かっている。
「仲間は、もういない…」
阿瑠はそういう言い方をした。
「いないだと…死んだと言う事か…」
義沙が疑っている。
「どうやったら、あれだけの者達を始末…」
「ん!」
そこまで言いかけて、義沙は話すのを止めた。
「途中で…朽ちた木を見た…」
「あれと関係があるのか…」
義沙の声と表情が変わった。
「あれは、やられた後だ…」
阿瑠が言った。
「やられただと…」
「この辺りには、化け物がいるのか…」
義沙は知らない。
義沙の記憶の中には、そんなものはいない。
「黑い化け物だ、闇というらしい…」
阿瑠は義沙にそれを伝えた。
「闇だと…俺は知らぬ…」
「火吟は知っているか?」
義沙は後ろにいる火吟に聞いた。
「火吟?」
火吟の声がしない。
かち、かち、かち…
何かを打ち鳴らす音が聞こえる。
義沙は気になって振り向いた。
火吟が、震えていた。
上下の歯を打ち鳴らし、がくがくと震えている。
「どうしたのだ…火吟…」
火吟程の男が、震えている。
信じられない姿。
大人が、子供の様に何かを畏れている。
その姿は異様とも言えた。
だが、それほどのことが、火吟の身に起きた。
それは、義沙にも想像できた。
「いるのか…黒い化け物が…」
義沙の問いに、火吟が震えながら頷いた。
「その男…蝦夷に行ったな…」
その声で、義沙が振り向いた。
阿瑠の側に、黒い棒を持った男が立っていた。
「そうなのか?」
義沙が火吟に聞いた。
「あ…」
火吟は震えながら頷いた。
「蝦夷の生き残りが、そんな事をしているとはな…」
その男、真魚が呆れていた。
あの時…
生き残った者達は、本当の地獄を見たはずだ。
生きている事が、どれだけ素晴らしいかを感じた筈だ。
「懲りぬ奴だな…」
真魚が笑みを浮かべた。
「それを見て、俺はどうでもよくなった…」
阿瑠はそう言って、懐に手を入れた。
「これが、王の証だ…」
それを手に持って見せた。
「これを持って、倭に帰るがいい…」
阿瑠はそれを義沙に渡そうとした。
「そうも…行かぬのだ…」
義沙が困った様子で頬を掻いている。
「何、これ!」
その時、昴が叫んだ。
頭を押さえて、その場に座り込んだ。
「あの男のやりそうな事だ…」
真魚が笑みを浮かべた。
「どういうことだ…」
義沙も、異様な雰囲気に戸惑っている。
「村人の抹殺に、何人連れてきた…」
真魚が義沙に聞いた。
「百人ほどが、今向かっている筈だ…」
「ご丁寧に狼煙も上げて頂いたのでな…」
義沙が笑ってそう言った。
どどどどどどどどど…
低い波動が伝わって来る。
「くっ、くっ、来る!」
突然、火吟が走り出した。
幽霊でも見たかのように、全力で逃げた。
「火吟ほどの強者が…」
「どうなっているのだ…」
義沙が訳も分からぬまま、呆然としていた。
「結局、こうなるのだな…」
真魚が棒を構えた。
続く…