空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その四十四
「阿瑠…」
昴は呆然と、阿瑠を見ていた。
二人の間で触れ合う波動。
目と波動が、二人を繋いでいた。
「お主ら、そういう仲だったのか?」
子犬の嵐が下から見上げていた。
「えっ…」
昴の頬が、赤く染まった。
嵐に言われるまで、気が付かなかった。
意識のない、刻が流れていた。
「これを、預かって来たわ…」
昴が懐から出し、阿瑠に渡した。
「これが…」
阿瑠が手にとって見ている。
「あなたが欲しがっていた物よ…」
昴が阿瑠に、その事実を告げた。
「ほう…」
前鬼が驚いている。
「面白い文様じゃな…中は菊の花かのう…」
その側で後鬼も見ていた。
「前鬼様と…後鬼様ですね…」
「佐伯様から、伺っております…」
「私が昴で、舞衣に、美鷺婆さんです」
昴が気を効かせ、皆を紹介した。
「なるほどな…」
後鬼が、笑みを浮かべている。
皆の波動から、全てを読み取っている。
「聞いておったより、美人ではないか?」
後鬼が、阿瑠の顔色を伺っている。
「この昴は…俺も初めて見る…」
女の着物を着た昴に、阿瑠が戸惑っている。
「そういうことなのか…」
後鬼が妙に納得している。
「済まぬが、それを儂に見せて貰えぬか?」
前鬼の頼みを、阿瑠は素直に聞き入れた。
王の証を、前鬼に渡した。
「これが…なるほど…」
前鬼が食い入るように見ている。
「儂も初めて見る文様じゃが…」
「少なくとも、唐あたりのものではないな…」
前鬼は納得した様子で、阿瑠に返した。
「そういうものが、ここにある…」
「それ自体が面白いのう…」
後鬼が謎の式盤の前で美鷺といる。
いつの間にか、美鷺婆と仲良くなっていた。
「鬼にも神にも逢ったぞ、私はもう死んでも良いな!」
「だめよ、美鷺婆!」
「まだ、仕事が残っているのよ!」
舞衣が美鷺を窘めている。
ちりぃぃん!
突然!
かすかな鈴の音。
「どうやら…仕掛けた罠にかかったようじゃな…」
後鬼の懐の鈴の音である。
「夜か…」
真魚がつぶやいた。
「今夜は大事な夜じゃ…」
「出来るなら…邪魔はない方が良い…」
美鷺が皆に言った。
「こちらの事は向こうは知らぬ…」
「そもそも…」
「うちらを相手に出来る者など、この世にはおるまい…」
後鬼が言った意味を、阿瑠は理解していた。
阿瑠達は、舞衣一人に完敗した。
女という姿に、油断はあったかも知れない。
だが、それだけでは無い。
そこに常識は存在しない。
あるのは理だけなのだ。
「まさかお主、寝返る事はないのう…」
嵐が、阿瑠を見て笑っている。
「これは俺の問題でもある…」
「俺が行って話を付ける!」
阿瑠が拳を握りしめ、そう言った。
続く…