空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その四十三
あれから数日が過ぎた。
阿瑠が後鬼と謎の式盤を見ていた。
「波動が高まっておる…」
後鬼はそう言って阿瑠を見た。
「俺には分からぬが、何かが起こるのか?」
阿瑠が、後鬼に聞いた。
「既に、始まっておる…」
「もう終わりに近い…と言う所じゃろ…」
後鬼はそう見ていた。
「ところで、前鬼殿はどこに行かれた?」
阿瑠は、姿の見えない事が気になっていた。
「ちょっと…仕掛けをしに出かけておる…」
後鬼が笑っている。
「仕掛け?」
「まさか、俺の仲間を…」
阿瑠はそう言った。
「仲間?」
「そう言い切れるのか?」
後鬼が、阿瑠に問い直した。
「それは…」
阿瑠が口籠もった。
「向こうに聞いて見なくては、分からぬ…」
「そう言う所じゃな…」
後鬼は、阿瑠の心の内を察していた。
「ん!」
後鬼がその波動を感じた。
「どうやら、お帰りのようじゃ…」
どすん!
その言葉と同時に、前鬼が空から降ってきた。
「やれやれ…やっと終わったぞ…」
前鬼はそう言って、二人の前に姿を現した。
そして、いきなり床に座り込んだ。
床と言っても、土の床だ。
前鬼は背中の笈を側に置いた。
「仕掛けとは何だ…」
阿瑠はそれが気になっていた。
「突然襲われては、たまらんのでなぁ…」
「この周りに糸を張って来たのじゃ」
後鬼が、そう言って笑っている。
「糸など簡単に見抜かれるぞ!」
阿瑠もその一員である。
それぐらいの罠は、頭に入っている。
「それが、目に見えるとは限らぬぞ…」
「それに…」
「お主は蜘蛛の巣にはかからぬのか?」
後鬼が微笑んでいる。
前鬼が仕掛けた糸は、目には見えぬ。
そう言っているように聞こえる。
「目に見えぬ糸…だと…」
感覚の外にある物は、無い物と同じ。
阿瑠はそれを理解している。
「蜘蛛の巣には…注意するが…」
蜘蛛の巣が張られている場合、そこは誰も通っていない。
だから、蜘蛛の巣には注意をする。
それを切れば、自らの足取りをさらす結果となるからだ。
「波動と…いうやつか…」
阿瑠は、感覚の外側にあるものを知っている。
そこに、自分達の常識は通用しない。
「そういうことじゃな…」
前鬼が笑っていた。
その時である。
「なんじゃ!」
謎の式盤に異変が起きた。
その耀きに驚いた後鬼が、後ろに退いた。
「あ…」
阿瑠は、呆気にとられていた。
「これは!」
前鬼も驚いている。
耀きが収まると、数人の人影が見えた。
その波動は良く知っている。
「真魚殿か…」
後鬼が声を上げた。
「揃っているな…」
真魚が、いつもの笑みを浮かべていた。
「なんだ、お主ら来ておったのか!」
嵐の目が、宿敵を捉えている。
「昴…なのか…」
阿瑠の心が、昴の着物姿に戸惑っていた。
続く…