空の宇珠海の渦 第八話 神の血族 その四十
「ありがとう、佐伯様、嵐様…」
昴は感謝していた。
「俺は、何もしていない…」
「昴の心が開いたのだ…」
真魚は笑っている。
「そろそろ戻るぞ…」
嵐がそう言うと、一気に高度を下げた。
「きゃぁ!」
昴と舞衣が、同時に声を上げた。
その速さに、身体が固まっている。
「ちょっとぉ~!」
昴は恐怖の余り、目を瞑っていた。
その高さから落ちれば、誰も助からない。
「古の神の力、使ってみればどうじゃ…」
嵐が昴をからかった。
「冗談言わないで、必死なのよ!」
昴は歯を食いしばっている。
「冗談では無いぞ、それだけのものを頂いたのだ…」
嵐が更に速度を上げた。
「おや…」
後鬼は空を見上げていた。
真魚達が抜けた滝の前にいる。
そして、その波動に気がついた。
「いることは…いるようだな…」
後鬼は一人で納得している。
「だが、向こうには…行けぬようじゃ…」
前鬼が、滝の中から姿を現した。
閉じた穴に、行く手をふさがれたようだ。
「儂らなら、どうにかなるが…」
そう言って阿瑠を見た。
「おかしな話だな…」
「襲われる前に、逃げれば良かろうに…」
阿瑠が前鬼に言った。
「お主もそれに気づきおったか…」
前鬼が笑みを浮かべた。
閉じた穴。
人には抜ける事が難しい。
「完全に閉じてしまえば行き来は出来ぬ…」
「そうなる前に…何かせねばならぬ…」
「そういうことじゃろう…」
それは、向こうの者とて同じ。
後鬼はそう考えているようだ。
「せねばならぬ…何だ、それは?」
阿瑠には想像もつかない。
「それは、あちらに聞いて見ぬとな…」
後鬼が笑みを浮かべた。
「それと、探検はここまでじゃな…」
後鬼は見切りを付けた。
「大方の段取りは付いたようじゃ…」
前鬼も波動から、そう感じ取っていた。
「段取り?」
阿瑠には全くついて行けない。
「真魚殿が、それとなく伝えてきた…」
後鬼が、懐の鈴を握っている。
「ところで…お主…」
「何だ…」
後鬼が阿瑠を見た。
「お主らの失敗は、伝わっておるのか?」
阿瑠にそう聞いた。
「まだ、失敗とは…」
「だが、時間がかかりすぎた…」
阿瑠の顔色が変わった。
「やはり、そうか…」
「伝え無くば…次の手か…」
後鬼が、笑みを浮かべた。
「すでに…」
「その辺りに、来ておるかも知れぬな…」
後鬼がそう言った。
「命は大丈夫なのか…」
前鬼が、それを気にしている。
「それは…昴次第だ…」
阿瑠はその事実に畏れ、口を閉じた。
続く…